研究課題/領域番号 |
19K20533
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
ZI YANYIN 立教大学, 異文化コミュニケーション学部, 教育研究コーディネーター (40807707)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 人事管理 / 労働組合 / 信頼関係 / アジア・アフリカ関係 |
研究実績の概要 |
本研究を通して、本国から派遣された中国人マネージャーが現地で直面する最も大きな困難は人事管理であることが再確認できた。 南アフリカでは労働組合が頻繁にストライキを計画するため、中国人マネージャーたちは多くの時間と労力を労働組合との交渉や労働関係の改善に費やしている。多くの中国人マネージャーは南アフリカの労働関係の歴史的な背景を理解していないし、これまでストライキに対処した経験もないため、この状況に戸惑っている。さらに、組合だけでなく、中国人マネージャーたちは現地の個々の労働者と信頼関係を築くのにも苦労していた。インタビュー調査の結果からは、両者の不信感は①コミュニケーションのずれ、②技能伝承の欠如、③情報の不透明性、④計画期間の長さの違いなどの要因から生まれるのではないかと考えられる。このような暫定的な結論は、今後、中国系企業や他のアジア系企業が南アフリカでどのように労働関係を管理すべきなのかという課題に示唆を与えるものになるだろう。また今回の成果は、次年度調査を行う際に、南アフリカと中国の両方の労働組合の歴史と運営状況を調査することの必要性を啓示した。 代表者はこれらの研究成果の一部をAfrica Journal of Managementに投稿し、採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
プロジェクトの2年目となる2020年度は、新型コロナウイルス感染症が広がったため当初の計画通りに進めることができなかった。そのような制限された状況下で研究を深めるため、以下のように調整して研究の遂行に努めた。 まず2019年に南アフリカで訪問した中国系大手企業1社と日系大手企業1社の担当者に連絡した。Zoomを用いた聞き取りで会社の運営状況を把握し、会社が新型コロナウイルス感染症によって受けた影響を明らかにした。そして、面識のある担当者の紹介によって、前回の訪問で会えなかった現地人マネージャーやアジア人の駐在員にインタビューすることができた。そのインタビューから得られた(1) アジア人マネージャーと現地社員の経歴、(2) 日々どのような関係で仕事を進めているのか、という情報をもとに、関連する研究資料の整理・解析を進めた。また、これまでに収集したアジア人のアフリカ進出に関する資料に基づいて、同じ分野の研究者とメールやZoomを通じて議論を行った。今年度は海外への渡航ができなかったが、代わりに文献調査に力を入れて、アジアの儒教文化とアフリカのウブントゥ文化という視点で比較研究を進めることができた。 さらに、新型コロナウイルス感染症によって、予定したインタビュー調査の実行が難しくなることを予測し、計画では予定していなかった調査方法である、新聞報道の内容分析でも研究を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は特に、アフリカに進出したアジア系企業における長期雇用を促進する要素・阻害する要素について集中的に検討する。主に文献調査と新聞報道の内容分析を通して、南アフリカの社会環境やアジア企業のアフリカ進出という広い枠組みの中で、アジア・アフリカ労働関係についての考察を進めたい。 業績概要で述べたように、アジア系企業には南アフリカの背景についての理解が不足している。アジア人と現地人が短期間で信頼関係を築くためには、アジア系企業がアフリカ進出にある程度長期的にコミットし、人材関係のノウハウを蓄積していく必要があるだろう。よって、南アフリカに進出しているアジア系企業の人材育成の動向を把握するには、アジア系企業のアフリカ進出そのものの動向を把握することが重要である。 これを踏まえ、今後アジア系企業のアフリカ進出の動向を探るため、まず日本の新聞がどのように日系企業のアフリカ進出や中国の「一帯一路(広域経済圏構想に基づく投資計画)」を報道しているかについて、内容の整理を始めた。アジア企業のアフリカ進出は単に企業の意志のみによるものではなく、国際関係やマスメディア、政策にも左右されていると考えられるから、今後これらの影響も研究の分析対象にしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画より出張旅費や調査協力者への謝金の支出を抑えられたため。残額は論文の英文校閲費用や本の購入費として支出する。
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