研究課題/領域番号 |
19K20533
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
ZI YANYIN 立教大学, 異文化コミュニケーション学部, 教育研究コーディネーター (40807707)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 人事管理 / アジア・アフリカ関係 / 信頼関係 / 南アフリカ |
研究実績の概要 |
本研究を通して、アフリカに進出した中国系企業において、派遣された中国人マネージャーが現地で直面する最も大きな困難は人事管理であることが再確認できた。中国人マネージャーたちは現地の個々の労働者と信頼関係を築くのに苦労している。インタビュー調査によると、両者の不信感は①コミュニケーションのずれ、②技能伝承の欠如、③情報の不透明性、④計画期間の長さの違いなどの要因から生まれるのではないかと考えられる。 任期制のため、多くのアジア系駐在員(中国人と日本人)は人間関係において最低限の投資しかしたがらない傾向がある。駐在員は南アフリカ現地の歴史や社会に対して関心が薄い。一方、現地従業員の方も、アジアに出張、訪問した経験がある人はわずかであり、多くの人がメディアやアジア人駐在員とのかかわりだけを通してアジアを理解している。それゆえ、アジア系駐在員と現地人が短期間で信頼関係を築くためには、文化的な面において橋渡し役をしてくれる人、いわば仲介役が一番確実な助けになる。日系企業の場合は、国際結婚やその他の理由で現地に永住や長期滞在をし、現地社会をよく知っている日本人・日系人を現地採用しているケースがある。また、近年日本に留学した経験がある南アフリカ人の採用も増えている。中国系企業の場合は、南アフリカで勤務した経験の豊富な駐在員を長期駐在させる方向で進めている。アジア系駐在員と現地人が信頼関係を築くためには、アジア系企業がアフリカ進出に対して長期的にコミットし、人材関係のノウハウを蓄積していく必要があるだろう。 以上に示した現段階における結論は、今後中国系企業や日系企業が南アフリカでどのように労働関係を管理すべきなのかという課題に示唆を与えるものになるだろう。また今回の成果は、次年度調査を行う際に、南アフリカと中国の両方の労働組合の歴史と運営状況を調査することの必要性を啓示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
プロジェクトの三年目となる2021年度は、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により当初の計画通りに進められなかった。このような状況で研究を深めるため、以下のように努力・調整した。 まず南アフリカに進出した日系大手企業で勤務している日本人の友人に連絡し、Zoomインタビューを通して、会社が新型コロナウイルス感染症流行によって受けた影響や派遣社員と現地職員の関係を明らかにした。 そして、南アフリカに進出しているアジア系企業の人材育成のマクロな動向を把握するには、今後は既に進出した企業だけでなく、アジア系企業全体のアフリカ進出の動向そのものを探る必要がある。アジア企業のアフリカ進出は単に企業の意志のみによるものではなく、国際関係やマスメディア、政策にも左右されていると考えられる。そのため、日本のマスメディアがどのように日系企業のアフリカ進出や中国の「一帯一路(広域経済圏構想に基づく投資計画)」、アフリカの新型コロナウイルス感染状況を報道していたかを整理した。分析した成果の一部を共同研究者と一緒にPacific Focusに投稿し、現在審査中である。 また、南アフリカに進出しているアジア系企業の人材育成をミクロレベルで理解することを試みた。具体的には、これまでに収集した南部アフリカへ進出したアジア人商人に関するフィールド調査のデータを西アフリカへ進出したアジア人商人のデータと比較し、アフリカに進出したアジア人の「個人の地域選択」に焦点を当てた。それにより「移民の地理学」理論に貢献するとともに、アジア系企業に派遣される個人のアフリカ観への理解を深められた。さらに、同じ分野の研究者とオンライン研究会やメールを通じて議論を深めた。これらの成果の一部を共同研究者とともにJournal of Current Chinese Affairesに投稿し、現在審査中である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、状況が許す限り南アフリカに渡航して、現地でインタビュー調査を進める予定である。 マクロレベルにおいては、アフリカへ進出したアジア系企業における長期雇用を促進する要素・阻害する要素について集中的に検討し、南アフリカの社会環境やアジア企業のアフリカ進出という広い枠組みの中で、アジア・アフリカ労働関係についての考察を進める。特にコロナ禍後の、現地社会の変化やアジア系企業の南アフリカ進出の最新動向を把握したい。 また、ミクロレベルで、アジア系企業に派遣されるアジア人従業員の「個人の地域選択」に対する理解を深めるため、2011年から今まで研究してきた南部アフリカにおける中国人商人の移動と関連付けて分析する予定である。本来の移民研究から一歩進め、商人と従業員の都市に対する認識や都市戦略という角度からデータを分析し、移民研究と都市研究を統合する方法で人の移動と移民地域の関係性に焦点を当てたい。 代表者はこれらの研究成果の一部をInternational Studies of Management & OrganizationとPacific Focusに投稿する準備を進め、国際学会African Studies Associationで発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画より出張旅費や人件費への謝金の支出を抑えられたため、残額は論文の英文校閲費用や出張旅費として支出する。
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