当該年度は、南アフリカへ進出したアジア系企業について、その長期雇用を阻害する要素を集中的に検討した。また、コロナ禍による現地社会の変化やアジア系企業の最新動向を把握した。 南アフリカへ進出したアジア系企業における長期雇用を阻害する要素として、まず現地労働者の賃金に対する不満があげられる。現地労働組合は頻繁にストライキを起こし、企業と最低賃金に関して交渉してきた。南アフリカに進出した中国系製造業会社Xは、新型コロナウイルス流行中、労働時間の短縮や正規雇用の減少などの対策を立て、労働コストを削減していた。それゆえ、企業Xと労働組合の対立がより深まってしまった。それに対して、地方政府は、労働法執行に関してしばしば妥協することで、労働者の権利侵害が増加したことが明らかになった。また、今まで調査してきた日系製造業企業Yでは新型コロナウイルス流行中に支社の日本人マネジメントチームが解散され、南アフリカ市場から一歩引くような傾向がみられた。南アフリカの労働運動は、労働者の権利を改善し、彼らの利益を確保するための積極的な力であると同時に、労働者のコアコンピテンシーと国際競争力を改善するための潜在的な障害であると言えるだろう。 アジア系企業における長期雇用を阻害するもう一つの要素として、海外駐在員の人事マネジメント力不足があげられる。これは、任期制という時間制限と、現地社会に対する理解の不足という要因によると考えられる。これについて、人の移動と移民地域の関係性に焦点を当て、アジア系駐在員のアフリカ都市に対する認識や都市戦略を分析した。日常で駐在員はアジア系料理店を通して、人脈を広げたり、現地社会に対する情報収集したりすることが度々ある。この点に注目し、ケープタウンにある日本料理店と中華料理店の全体像を把握することによって、アジア人の南アフリカ進出の時間と空間の軸を明らかにした。
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