研究課題/領域番号 |
19K20534
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
苅込 俊二 帝京大学, 経済学部, 准教授 (90755761)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中所得国の罠 / 脱工業化 / デジタルエコノミー |
研究実績の概要 |
開発途上国における経済発展は従来、工業化を通じてなされてきたが、近年、十分な発展がなされないうちに工業化が成長ドライバーの役割を終えてしまう事象が観察されるようになった。こうした「早すぎる脱工業化(Pre-mature de-industrialization)」はどのような要因により生じているのか。また、早すぎる脱工業化が生じる国とそうでない国とを分ける条件は何か等、そのメカニズムは十分に解明されていない。本研究の目的は、①中所得国において早すぎる脱工業化は生じているのかを確認した上で、②脱工業化の要因・メカニズムをマレーシアとフィリピンを調査対象として分析、それらの結果を踏まえて、③早すぎる脱工業化は中所得国の経済発展を停滞させる要因となるのか、検討することである。 2019年度は、中所得国(世界銀行の所得分類による103カ国)を対象に、各国の産業構造を国民所得統計、労働統計による就業者数、貿易データなどの切り口から網羅的にサーベイした。産業構造の統計的分析を通じて、製造業のシェアが拡大した時期、減少した時期を確認しながら、産業構造変化の背景・要因を特定・類型化した。 これら分析結果を通じて、所得水準が一定程度まで高まらない段階で脱工業化過程に入 ると、その後の成長が制約される可能性が示唆される(苅込(2020))。それは、製造業が雇用の受け皿としての役割を早期に終えてしまうと、①労働力は小売・飲食など、概して生産性の低いサービス部門に吸収されてしまうと、いわゆるボーモルのコスト病に罹患する上、所得水準が低いままでは国内サービス消費市場の拡大余地も制約される。また、②製造業の発展に従いニーズが高まる物流、会計・法務、金融といったビジネス関連サービスの発展が制約される、という2つの経路から成長制約が生じるためである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
中所得国における「早すぎる脱工業化」の実態をより詳細に検証するために、2020年3月にマレーシアへの現地調査を計画した。しかし、新型コロナウイルス禍に伴い、実施できなかった。マレーシアについては、文献サーベイを通じて情報収集に努めているが、より詳細な実態の把握には現地での調査が欠かせないと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に実施ができなかったマレーシアへの現地調査に加え、フィリピンの現地調査を2020年8月に実施する。マレーシアについては、労働コストの上昇、高付加価値化の立ち遅れなどから電子・電機産業が地盤沈下するなど、リーディングセクターの停滞要因を中心的に調査によって明らかにする。また、フィリピンについては、IT-BPOが製造業に代わる成長ドライバーとなっているが、本セクターは雇用創出力などの観点から持続的なものなのかを探る。 以上の分析・検討結果を踏まえて2020年度後半に取りまとめ論文を執筆し、海外学術専門誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月にマレーシアへの現地調査を実施予定であったが、新型コロナウイルス禍によって実施できなかった。そのための旅費の支出がなかった。マレーシアへの現地調査は本課題を実施する上で不可欠のため、2020年8月に、3月に予定した同規模で実施する計画である。
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