開発途上国における経済発展は従来、工業化を通じてなされてきた。このため、既存研究の多くは、十分な発展がなされないうちに、経済の重点がサービス部門に移行することをネガティブに捉えてきた。それは、製造業が雇用の受け皿としての役割を早期に終えてしまうと、①労働力は小売・飲食など、概して生産性の低いサービス部門に吸収されてしまうと、いわゆるボーモルのコスト病に罹患する上、所得水準が低いままでは国内サービス消費市場の拡大余地も制約される。また、②製造業の発展に従いニーズが高まる物流、会計・法務、金融といったビジネス関連サービスの発展が制約される、という2つの経路から成長制約が生じるためである。 しかしながら、より個別の状況、国ごとに観察、分析すると、たしかにマレーシアでは製造業の弱体化を通じた脱工業化の動きが観察される一方、フィリピンでは製造業と同様、IT-BPO(Business Process Outsourcing)といったサービス部門も成長のけん引役を果たしている。特に、2000年代以降、デジタル化の急速な進展は、製造業及びサービス業を取り巻く環境を大きく変貌する中、現象としての製造業部門のシェア低下が必ずしも中所得国の経済発展を遅滞させることにはつながらないことがわかった。 2000年代以後、開発途上国の工業化を取り巻く環境をみると、世界全体でみれば製造業の雇用者数は増加しておらず、今後はデジタル化の進展、ロボット活用、3D印刷等の技術変化によって、製造業が従来果たしてきた役割が変質する可能性が生じている。製造業部門のシェアが水準並びに傾向的に低下する、いわゆる早期脱工業化は、デジタル経済化などの環境変化がもたらす面も大きく、製造業の弱体化による結果とみるよりも、成長に対するサービス部門の貢献をむしろ評価すべきかもしれない。
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