社会主義ソ連の解体過程では、複数の国々のあいだで、分離独立紛争が発生し、対外主権に歪みのある未承認国家が数多く形成された。未承認国家とは、「正当な暴力を独占して統治を行う対内主権は有し、既存の国家に国家承認を求めているものの、主権国家として如何なる独立国家からも承認されていない、又は少数の国から承認されている政体」である。既存研究では、その内政やユーラシア国際関係に及ぼす影響などが分析されてきたが、未承認国家が国際法的な親国家の制度構築に与えた効果は十分に明らかにされていない。本研究では社会経済的な条件が類似しながらも、異なる半大統領制の設計を採用したウクライナとモルドヴァを比較分析し、地方の未承認国家化が中央の半大統領制の設計の違いに与えた効果を、一次資料を用いて実証的に明らかにする。ソ連解体後では未承認国家を抱えるモルドヴァが首相優位の設計を採用した一方で、それを抱えないウクライナでは大統領優位が採用された。ユーラシアにおける未承認国家の形成は、親国家の半大統領制の制度設計の違いに如何なる効果を与えたのか。 本研究では、研究蓄積の手薄な両国の半大統領制導入の起源をユーラシアに特徴的な未承認国家から捉え、地方の視座から中央の制度構築を明らかにする。それはユーラシア政治変動の理解に貢献し、分離独立研究と執政制度研究の架橋に繋がる。最終年度では、学会報告や論文の執筆を行った。またロシア・ウクライナ戦争の発生に伴って、ウクライナに対する社会の関心が高まったため、ウクライナの内政や外交などに関するアウトリーチング活動を幅広く行った。
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