最終年度は、シャン文字によるパーリ語表記法について現地とオンラインでつなぎインタビューを行うなど、民族と仏教の関係をめぐる知見を深めた。科研費助成が終わったあともこの研究を続け、収集した資料の整理を進めて、成果の発表に繋げたい。 研究期間全体について、当初の計画通りに進んだとはいえないが、民族と仏教の関係を含む成果として、英語論文2本、共著単行本1冊、共著研究ノート1本、研究報告書1章を執筆することができた。誦経発声法、戒統重視の伝統、および改革的な僧伽浄化運動が1つに結びついた民族宗派の形成に関しては、これまでもその経緯を追ってきた少数民族モン(Mon)の研究を進め、追加で行った現地調査の成果も踏まえて、主にタイ国の事例を英語論文にまとめた。また、モンの民族主義運動は、とくに読み書き能力の普及という点で、モン僧伽の動向が重要であることに注目してきたが、その成果の一部を英文で発表するとともに、ミャンマーにおけるモン語で書かれた逐次刊行物を20世紀半ばから現在まで通時的に整理した報告書をまとめるなかで、改めて僧伽の民族主義的傾向を指摘した。また、ミャンマー国ダウェーの僧伽については、現地調査こそ叶わなかったものの、ビルマ語とタイ語の資料を用いて共著研究ノートとしてまとめ、独自の動きをしてきたダウェー僧伽研究の端緒を開くことができた。ほか、現地調査の成果を一般社会に知ってもらうきっかけとして、上座部仏教徒の社会について、複数の国・地域・民族を比較し紹介する概説書を共著で出版した。
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