研究課題/領域番号 |
19K20550
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
野中 葉 慶應義塾大学, 総合政策学部(藤沢), 准教授 (70648691)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イスラーム / ムスリマ / ヴェール / 服装 / 女性 / インドネシア / ヒジャーブ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、「保守化」している評される昨今のインドネシアのイスラーム社会における女性たちの装いに着目し、当事者へのインタビュー、テキスト分析、悉皆調査を用いて、女性たちのミクロな語りとその背後にある言説、そして全体像を明らかにすることにある。4年間で実施する研究内容として、A) 首都ジャカルタと地方都市マカッサルの大学生と住民の女性たちを対象に、装いに関する悉皆的調査、B)ニカーブ着用者およびヴェール非着用者への聴き取り調査、語りの分析C)装いの選択や実践を支えるイスラーム的言説分析と設定した。 3年目の2021年度は、コロナの影響で渡航が出来なかったが、ニカーブ着用者へのこれまでの調査結果を分析し、日本語、英語の両方で論文を執筆。英語論文は、『Indonesia and the Malay World』に掲載された。日本語論文も、2022年度に出版される書籍の一章として収録される予定である。(以上、研究内容B関連)。 ヴェール着用に関わるイスラーム的言説を整理し、2021年8月にインドネシア銀行らが主催した国際学会にて「信仰と衣服:神のために装う意味」というタイトルで発表した。同時に、論文「宗教と衣服」を執筆、『クリティカル・ワード ファッションスタディーズ』に収録された。(以上、研究内容C関連) さらに、ヴェール着用やムスリム服の広がりとともに顕著になったハラール化粧品のブームに着目し、女性たちの美意識や化粧を施すことに関するイスラーム的言説の分析、コロナ以前に実施したインタビューやハラール化粧品最有力ブランドWardahに関する調査結果を基に論文を執筆した。この論文は『Created and Contested』に収録された。ハラール化粧品ブームについて、2021年9月に実施のICASで英語発表を、同年12月には横浜市立大学ジェンダー研究会にて日本語発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は、定期的にインドネシアに渡航して現地調査を行いデータ収集することを予定していたが、コロナ禍でインドネシアへの渡航が全くできなくなり、研究計画自体を見直す必要が生じた。2021年度は、これまでに集めた資料やデータを用いた言説分析、文献調査、さらにはSNS上の投稿やコメント分析に主眼を置いて研究を行った。これらには、ヴェールやニカーブ(チャダル)着用に関わる言説分析や、ハラール化粧品ブームに関わる美意識や化粧で装うことに関する言説分析、また、ニカーブ(チャダル)着用者が参照するInstagramを始めとするSocial Mediaの記述やYouTubeに投稿されたサラフィー系説教師の説教の分析などがある。こうした言説分析、文献調査を基に、上記に記したものを含む、複数の出版物の刊行や口頭発表を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
4年計画で実施している本研究は、今年度で最終年度を迎える。コロナの感染拡大の影響で、当初予定していた現地調査が全く実施できず、3つの計画内容のうちAの実施が滞っている。一方で、BとCについては、言説分析やテキスト分析、文献調査などを通じて研究を進めることができている。今年度もインドネシアへの渡航には制限がかかりそうであるが、ひとまずは、昨年度から継続しているヴェールの非着用者または着用をやめた女性たちの言動の裏側にあるイスラーム的言説を明らかにすることを目指す。具体的には、彼女らが参照するイスラーム関連書籍やSNS上の発信などを分析し、こうした言説を作り、提示しているウラマーたちのクルアーン解釈の中身を明らかにする。現地調査が可能になった場合には、これに加え、現地での女性たちの語りを収集したい。 また最終年度ということを踏まえ、これまでの調査で得たデータをきちんとまとめ、アウトプットしていく一年としたい。本研究はインドネシアのイスラーム社会が「保守化」しているということを前提にしているが、コロナ禍を経て、インドネシアのムスリム社会がいかに変化したのかにも目を向け、女性たちの服装や装いの変化やそれを支える言説の変化を論じていこうと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症拡大の影響で、海外渡航ができず予定していた現地調査が出来なかったため、2021年度に配当された金額を使いきれなかった。2022年度には海外への移動の制限が緩和される見込みであるため、出来る限り現地調査も実施して予定している研究を実施したい。
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