最終年度においては、台湾住民と非台湾住民とを制度的に切り分ける、戸籍制度に関する研究成果を複数発表した。第一の成果は、台湾でハイブリッド開催された国際シンポジウムにおいて報告した、「戦後台湾的戸籍編成与人的移動管理(1945-48)」である。これは戦後台湾を日本から接収した中華民国が、植民地統治期の住民情報を基礎としつつ、戦時動員を念頭においた戸籍法制を適用して行った過程を検討したものである。このなかでは、戦後台湾において確立した戸籍制度がもっぱら領域内の住民にのみ適用され、国外に長期滞在する在外国民に対しては在外公館を通じた登録のみが行われ、両者は制度的に切り離されていたことを明らかにした。ついで同志社大学での講演会では、「中華民国の出入境管理制度と対外政策」を報告した。この報告では華僑と本国政府の関係を念頭に、中華民国大陸時期から1950年代にかけての出入境管理制度の変遷をサーベイした内容である。また学会賞を受賞した既報論文を元に、学会の補助を受けて英訳した論文”The Sino-Japanese peace treaty and the Chinese residents in Japan: Legal status problem under the 1952 regime”を英字ジャーナルJCEASに投稿した。こちらは2023年5月にアクセプトされている。 このほか、過年度の主要な研究成果としては、若林正丈、家永真幸『台湾研究入門』所収、「国籍と戸籍から見る中華 民国台湾の境界」(2020)、日本台湾学会報22号掲載論文「日華平和条約と日本華僑:五二年体制下における「中国人」の国籍帰属問題(1951-1952)」(2020)、泉水英計編著『近代国家と植民地性』御茶の水書房 所収論文「一九五〇年代の台湾出入境管制と「中国系難民」問題」(2022)などがある。
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