最終年度となった2023年度では、米国に渡ったアフガニスタン人への聞き取り調査を中心として行った。当初は、アフガニスタン・イスラム首長国への渡航を念頭にしていたが、ターリバーン政権下での渡航には、慎重にならざるを得なかった。海外からアフガニスタン・イスラム首長国へ来訪した者に対するターリバーン政権側による政治利用、そして地方部へ移動した際の治安のリスクを勘案し、現地渡航は断念した。その代替として、2021年のアフガニスタン・イスラム共和国の崩壊以後に海外へと移住したアフガニスタン人、並びに、それ以前から海外に移住したアフガニスタン人への聞き取り調査を行った。 インタビュー調査からは、渡航時期に関わらず、海外に生活の基盤を移したアフガニスタン人たちが、アフガニスタンを去った後にも、自らの所属していた地域社会並びに親族と密接な関係を維持していることが確認された。また、海外に渡ったアフガニスタン人のうち、いまだにアフガニスタン国内に土地などの資産を所有していることも確認できた。 海外に渡航し、そこで生活を築いたアフガニスタン人の多くが、現地に残る家族や親族に対して、海外から送金していることも聞き取りから確認できた。2021年までは、国際社会がアフガニスタン・イスラム共和国に対して国際援助という形で資金提供を行っていた。しかし、2021年8月のイスラム共和国崩壊以後は、国際援助が急減した一方で、個人間での国境を越えた資金援助の重要性が増したことになる。しかし、資金流入量の規模で見れば、国際社会からの資金流入量が巨大であった一方で、個人間の資金移転は相対的に規模は小さい。規模が小さいとはいえ、国際社会からの援助の多くが無くなった中での個人による送金は、地域社会への現金流入という意味では大きなインパクトを持つことが明らかになった。
|