研究課題/領域番号 |
19K20581
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研究機関 | 明星大学 |
研究代表者 |
土野 瑞穂 明星大学, 教育学部, 准教授 (10739048)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 安全保障 / 性暴力 / 紛争 / 慰安婦 / ケア |
研究実績の概要 |
本年度は申請書で記載した年次計画通り、既存の安全保障に対するフェミニストたちの批判の論点を明らかにした。具体的には、国際政治に個人の視点を持ち込んだ概念として広く知られている「人間の安全保障」について、それより前から個人の視点、特に女性の視点を取り込んできたフェミニスト国際関係論ではどのような批判的検討がなされてきたかを、性暴力の問題の焦点を当てて、文献調査を行った。調査から明らかになったことは以下の3点である。 一つ目は、「人間の安全保障」が女性を「特別な関心事」と位置づけていることである。紛争下における性暴力からの女性の保護はいうまでもなく必要であるが、同時に「保護すべき女性」は、そもそも暴力を下支えする権力構造であるジェンダーの再生産をもたらす危険性がある。 二点目は、「人間の安全保障」概念の広さ・曖昧さである。人間の安全保障アプローチでは、ある特定の脅威、すなわち主に途上国で生じる残虐性が際立っている問題が焦点化されやすく、その結果ジェンダーの要素が見落とされやすいという問題がある。 三つ目は、伝統的な安全保障が前提とする人間観が、「他者の助けを一切必要としない自律した人間」という、現実の生身の人間の姿からかけ離れていることである。このことの問題性は、本研究の理論的支柱となる「ケアの倫理」の領域で議論されてきている。「ケアの倫理」は、こうした人間観の問題性を暴くだけでなく、戦争を「防ぐ」ことに主眼を置く伝統的な安全保障にはない、暴力を「受けた」人々に対する応答・ケアの必要性をも射程に入れていることがわかった。 本年度はこれらの調査結果を2019年6月号の「学術の動向」で論じた。また、三つ目の点については、実際にどのような応答・ケアが紛争下の暴力の被害者になされてきたのかを考察すべく、台湾人元「慰安婦」女性たちへのケアを主題としたドキュメンタリー映画を分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の調査は文献や映像資料のみで実施することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
2020・2021年度は武力紛争下における性暴力の事例として、元「慰安婦」女性たちが支援者とともに実践してきた尊厳回復のための営みに関する実態を明らかにすることを予定している。そこで韓国、フィリピン、台湾での調査を計画していたが、新型コロナウイルスの関係で海外調査を実施できない可能性が出てきた。関係者に直接インタビューできない場合は、日本で入手できる、支援団体が被害者支援についてこれまで記録してきたニュースレターや書籍を通じた文献調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
数冊の文献を購入しようとした際、残高不足だったため購入可能なものだけ購入したところ、82円が残った。82円については、次年度の物品費に充当させていただく予定である。
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