新型肺炎の拡大に伴い、国内で実行可能な研究内容に変更した。本研究では、戦後美術における女性の表現を総合的に研究し、歴史的な記述として見直すことにあった。そのために、初年度は1950年代から1960年代の女性美術家に関する資料を、国立近代美術館、東京文化研究所を中心に収集し、その分析結果を以って日本現代美術のる批判的研究として、『アンチ・アクション―日本戦後絵画と女性画家』として刊行した。次年度は、聞き取り調査の実施と公開につとめ、日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴスにて、前田彰子氏のオーラル・ヒストリーをまとめ、また過去におこなった松本路子氏、出光真子氏のインタヴューを随時公開している。これらの女性美術家の証言から、1960年代から80年代にかけての短い期間に、性解放、政治運動、ウーマン・リブ/フェミニズムなどの時代の動きがあったことに目を留め、60-70年代にかけて顕著だった性の表現に関する資料収集に集中し、作品や制作ノートなどを熟覧した。その成果の一つとして、工藤哲巳ら「反芸術」運動における性表現を再検討し、草間彌生などがそれに抵抗するかのように、女性を主体とした性の表現を志向していたことを分析結果として研究発表し、次年度に論文にした。 最終年度は、より国内の女性美術家に研究を絞った。女性の性に関する議論が高まっていた上記の時代、前衛美術、女性解放運動、女性美術家をつなぎとめる人物として岸本清子の調査に集中し、彼女の「エロス」の表現に注目してこの時代の女性美術家のアンビバレントな女性観について論じた。 「フェミニズム&アート研究プロジェクト」の第5回研究会で、池田明日香氏(リヨン大学)と原口寛子氏(大阪大学)を発表者に、アン足立氏(CCJ)をコメンテーターを招き、「1970年代日本の女性アーティスト」と題したシンポジウムを行なった。
|