研究実績の概要 |
本研究では、トランスジェンダーの子を持つ親の心理的葛藤や苦悩の内実を明らかにし、それらの苦痛を低減することを目指した支援はいかようにあるべきかを考究するものである。最終年度である本年は、これまでの研究を総括する形で、インタビュー調査研究のまとめを行い、また、本研究で得られた知見をより平易な形で一般の雑誌媒体に発表することを試みた(たとえば、エッセイ「ひそかに自分が嫌い」心理臨床の広場 15(2), p.44)。研究期間全体を通して取り組んだことを要約すると、以下の3点を挙げられる。 ①トランスジェンダーの子をもつ親へのインタビュー調査:まず、当事者団体のミーティングへの参加し、実態をつかんだ。また、そこで本調査への協力者を探した。調査で注目したのは、親自身が抱くセクシュアリティ観の俯瞰と解体、そして再統合であったが、それは直線的に進むものではなく、支援者との関係性の中で紆余曲折すると考えられた。 ②精神分析的な理論的背景を構築するための翻訳書刊行:老年期のセクシュアリティに関する仏語文献を共訳した(ブノワ・ヴェルドン著『こころの熟成―老いの精神分析』(白水社)。また、本書をテーマに、老年期に現象学的視点からアプローチしている哲学研究者とオンライン対談も実施した(2022年3月)。 ③性別違和を抱く当事者のアセスメントに関する研究:トランスジェンダーと診断されるには至らないものの心理士のもとを訪れた人に対して行ったアセスメントを事例論文としてまとめた(主にロールシャッハ・テスト使用)。
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