研究課題/領域番号 |
19K20596
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
河野 直樹 秋田大学, 理工学研究科, 特任講師 (60800886)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 励起子 / 量子井戸 |
研究実績の概要 |
本研究は、有機無機ペロブスカイト型化合物を用いて、高い発光量と短い寿命を兼備した優れた高速応答性を示すシンチレータの開発を行うことを目的としている。シンチレータとは、高エネルギーの放射線を低エネルギーの光子に変換する蛍光体材料であり、資源探査や医療機器、高エネルギー物理学、セキュリティなど様々な用途で使用されている。それぞれの用途によって必要な発光特性は異なるが、例えば高エネルギー加速器施設やポジトロン断層法などでは、高速応答性(高い発光量、短い寿命)を示すシンチレータが求められている。本研究で使用する有機無機ペロブスカイト型化合物は、化学組成に応じて様々な次元性を有する構造を形成し、特に2次元構造を有する材料からは高強度な高速な励起子発光を示すことが知られている。今回、高い発光量と短い蛍光寿命を示す蛍光体材料を開発するために、様々な有機無機ペロブスカイト型化合物の無機層の組成制御により結晶構造の歪を誘発することで、放射線励起時の発光量の向上に努めた。これまでに様々な無機層組成を検討した結果、25~30%程度の量子収率を示す材料を発見した。そして、それらの材料の放射線応答性を調べた結果、γ線励起時の発光量がおよそ20000 photons/MeVと極めて高い発光量を示すことがわかり、さらにその発光寿命が5 ns程度の極めて高速であることがわかった。この結果から、研究目標である発光量20000 photons/MeVと発光寿命10ns以下の発光特性は実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高速応答性を示す有機無機ぺロブスカイト型化合物を作製するために、無機層の組成制御をした材料の単結晶を作製し、その光学特性の評価を行った。これまでに5通りほどの無機層組成を検討し、貧溶媒拡散法や温度勾配法などにより単結晶の育成を試みた。これらの方法の条件の最適化を行うことで、厚さ0.1~1 mm程度の単結晶の育成に成功し、XRD構造解析により、それらの単結晶が目的の構造の材料を有することを確認した。基礎光物性を評価した結果、主成分であるPbとイオン半径が近い元素を添加した化合物において、高い量子収率を示す傾向があることがわかり、25~30%程度の量子収率を示すことがわかった。さらに、放射線励起時の発光量の測定の結果、18000~20000 photons/MeVの高い発光量を示すことがわかった。この結果、無機層結晶構造の歪の誘発による発光量向上の効果を確かめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、無機層結晶構造の歪の誘発による放射線励起時の発光量向上効果を確認することができた。今後は、無機層のさらなる組成探索を行うことで、発光量のさらなる向上に繋げたい。組成制御した化合物の単結晶を貧溶媒拡散法や温度勾配法により作製し、粉末X線回折法(XRD)、蛍光X線法(XRF)、エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により構造・組成評価を行う。その後、透過・反射率、ラマンスペクトル、真空紫外から近赤外域までの広い波長域におけるPhotoluminescence (PL)、PL蛍光減衰時定数評価を室温から低温領域で評価を行い、基礎的な光物性を把握する。そして、放射線励起時の発光スペクトルや蛍光減衰時定数の評価、パルス波高値スペクトルにより発光量を調べる。加えて、輝尽蛍光特性の評価により、欠陥準位や量を把握する。これらの一連の評価結果を材料合成にフィードバックすることで最適の組成の探索を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、当初予定していた出張が多くキャンセルされたことや、予定よりも組成最適化研究が順調に行えたことが要因である。次年度では、実験のための出張を増やすことや、より幅広い組成探索を行いたいと考えている。
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