本研究では従来の軟X線発光分光用の溶液セルに温度制御機能を付加することで、温度変化や相転移現象に関係する水の構造解析を実現することを目標とした。昨年度より継続で温度可変溶液セルを開発・改良し、その性能の確認実験を行った。温度制御範囲は -30℃~80℃ を達成した。その結果、液体のエタノールの軟X線発光分光スペクトルの温度依存性を観測することに成功した。液体のエタノールの軟X線発光分光スペクトルの温度依存性については理論計算と比較し、液体のエタノールの水素結合構造と温度の関係を明らかにするべく議論を進め、論文化を進めている。また、今回開発した温度可変セルを応用研究へ展開する取り組みも複数進めてた。一つ目は温度変化によって金属有機構造体 (MOF) が水分子を吸脱着する過程の MOF 中の有機分子の電子状態変化の観測を目指すものだった。二つ目は高分子電解質膜中の分子の電子状態解析で、温度に依存して高分子電解質膜中で水分子同士のネットワーク構造が変化していることを観測した。三つ目は高分子の温度相転移に伴う水和構造変化の観測を目指す研究であった。この高分子はたんぱく質の構造転移を議論するモデル分子とみなされている。これらと並行して今回開発した温度可変セルの改良も行った。具体的には溶液セルの温度制御を行うための恒温槽と溶液セルを繋ぐ配管をより高い断熱性を備えた金属チューブ変えることで温度安定性(±0.3℃)を実現し、上記のような応用研究に展開することができた。
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