研究課題/領域番号 |
19K20600
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齋藤 真器名 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (80717702)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ゴム / 原子ダイナミクス / メスバウアー / 核共鳴散乱 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、原子・分子スケールの構造のナノ~マイクロ秒の緩和時間を測定可能な“ガンマ線準弾性散乱法”に対し、さらに高精度にガンマ線分光を可能とする“逆位相法“を開発することで、ダイナミクス測定の効率を飛躍的に向上することである。この新手法を用いてタイヤのモデル系であるナノ粒子添加ポリブタジエンゴム中の高分子とナノ粒子の運動という異なった空間的な階層の運動の時定数を高精度に決定し、タイヤのグリップ特性に直結するゴム粘性のミクロな起源を明らかにすることを目指している。 今年度は、まず新規逆位相法を用いたガンマ線準弾性散乱法の実証実験を行った。その結果、新手法の実証実験に成功することができた。これにより、これまでには存在しなかった偏光と時間領域における干渉性を組み合わせた新しいメカニズムでの干渉計を実証することができた。また、この新手法がこれまでの手法に比べてより低い系統誤差で微視的なダイナミクスの時定数を決定できるなどの高い性能を有することを確認した。 この装置開発と並行して、ガラス状態の高分子の様々な物性を支配している局所緩和過程の空間スケールに関する詳細を明らかにするため、ガンマ線準弾性散乱法によりタイヤに用いられるポリブタジエンの微視的なダイナミクス研究を行った。その結果、ガラス転移温度より十分低温でも、オングストロームスケールの空間スケールにおいて局所緩和過程を観測することに成功し、その空間スケールを特定することができた。加えて、その緩和過程は強く空間的に制限されていることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では初年度において新規手法を実証し、その高いダイナミクス測定性能を実証する予定であった。本研究では、まず新手法を実証することができ、それにより他に類を見ない新しいメカニズムで動作する新規の干渉計を実現することができた。加えて、この新手法はこれまでの手法に比べて低い系統誤差で原子スケールのダイナミクスの時定数を決定できることを示すことができた。その一方で、新手法のダイナミクス測定効率は予測を下回り既存の手法と同程度であった。これはガンマ線放射体の条件が最適化されていなかったためであると考えてており、次年度はシミュレーションや理論計算により測定効率の向上にむけ条件を最適化することで、その高効率化を実現する。 一方、物性研究に関しては次年度より開始する予定であったが、これを前倒しして行い、タイヤ材料であるポリブタジエンに関してこれまでその微視的な振る舞いがよくわかっていなかったガラス状態におけるオングストロームスケールの局所ダイナミクスの測定に成功した。 このような状況を総合して、研究は概ね順調に進展していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度以降はコロナウイルスの影響により、研究活動への多大な影響が懸念されるところである。早期に放射光施設が運転再開されれば、ガンマ線放射体の条件など装置系を最適化することで新規手法の測定効率向上を行う。その新手法を用いて、タイヤのゴム材料のモデル系である、シリカナノ粒子を添加したポリブタジエン系中における高分子とシリカナノ粒子のダイナミクスを系統的に測定する。具体的には、微視的なポリマーダイナミクスに関してはシリカの粒子のサイズ、密度、温度、運動量以降依存性をそれぞれ測定することで、シリカナノ粒子の高分子鎖ダイナミクスへの影響を具体的に明らかにする。それにより、タイヤの粘性や摩耗特性を支配する微視的な起源の理解と材料開発への指針を明らかにすることを目指す。 コロナウイルスの影響により万が一放射光施設が早期に運転再開されなければ、これまでのポリブタジエンのガラス転移温度以下における微視的なダイナミクス測定の結果をまとめ、論文化を行う。また、装置開発に関しても、シミュレーション法などを駆使して引き続き測定効率向上に向けた条件の洗い出しに務めるとともに、実証実験に関する論文執筆の準備を進めていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度はダイヤモンド移送子と偏光解析用シリコン単結晶を購入する予定であったが、理論・シミュレーション研究の進展により、これらを用いる必要の無い新システムを考案できたため、購入を行わなかった。そのため、次年度への繰越金が発生した。 繰越金は、次年度のSPring-8における放射光実験や国際学会発表などの旅費に充てたいと考えている。
|