研究課題
本研究の目的は,中性子スピンエコー分光法とスピン偏極解析を組み合わせた測定手法を確立し,時間スケールの異なる磁性ダイナミクスに関する研究を行うことである.具体的には,酸化鉄ナノ粒子分散溶液における磁気緩和を対象に,スピンフリップ散乱とノンフリップ散乱を分離して,中性子スピンエコー法によるダイナミクス解析を行う.昨年度に大強度陽子加速器施設の物質・生命科学実験施設(MLF)の中性子ビームライン BL06において,溶媒を重水置換した酸化鉄粒子分散溶液を試料として中性子小角散乱の測定を行った.MLF共通技術開発セクションの協力を得て,ヘリウムスピンフィルタによる散乱ビームの偏極解析も行うことができた.この測定データについて,ヘリウムのスピン偏極の緩和を考慮した解析を進めている.測定効率を上げるために,広い検出器面におけるスピンエコーシグナルの位相補正方法の定式化を行うとともに検証実験を行った.高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所において開発された32x32 cm^2 の大面積検出器についてこの位相補正法の有効性を実証することができた.
2: おおむね順調に進展している
これまでのテスト実験から,偏極解析スピンエコー法のための測定のプロトコルおよびデータ解析法を確立するための指針を得ることができた.大面積検出器で必要とされる,スピンエコーシグナルの位相補正方法を実証することができた.
時間振動型スピンエコー装置の入射ビームは高度に分光されているので,引き続き信号/ノイズ(S/N)比を改善する必要がある.ナノ粒子のサイズや溶液濃度の最適化のために,X線小角散乱法を相補的に用いる予定である.
中性子実験施設での実験および会議発表参加のための旅費がキャンセルされた.今後それらの旅費と実験に必要な備品の購入費用として使用予定である.
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