研究課題/領域番号 |
19K20604
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
井上 伊知郎 国立研究開発法人理化学研究所, 放射光科学研究センター, 研究員 (30783401)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | X線自由電子レーザー / 非線形光学現象 / ポンププローブ法 |
研究実績の概要 |
本研究では、X線自由電子レーザー(X-ray free-electron laser; XFEL)施設SACLAを用いて発振させた2色ダブルパルスXFELビームを用いて、様々な非線形光学現象を測定することを目指している。 本年度は、時間差をつけたXFELダブルパルスを用いたX線ポンプX線プローブ法によって、ダイヤモンドに高強度X線を照射した際に起こる固体から液体への融解過程を測定することを試みた。その結果、ポンプ光を照射してからわずか5フェムト秒の間に原子間の化学結合が切れて、原子の周りの電子密度がほぼ等方的になることが明らかになった。さらに、原子の移動が化学結合の切断から遅れて起こることが実験によって示された。今回観測された融解過程では、化学結合の切断と原子の移動の時間的な前後関係が通常の融解過程とは反対になっており、高強度XFELが引き起こす物質の融解が非熱的な起源を持つことが明らかになった。 また、昨年度に開発した、セルフシード技術とマルチカラー発振技術を組み合わせた単色・準単色の2色XFELビームについて、その調整手順の最適化を行ってスムーズにレーザー発振が実現できるようにした。 本年度に開発および検証した装置や技術は、来年度からのX線非線形光学現象の測定のための基盤となるものである。すなわち、来年度からのX線非線形光学現象の測定に向けて順調に準備をすすめることが出来たと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目標であった、X線の非線形光学現象の観測(X線が引き起こす非熱的な物質の融解)に成功した。また、高度な2色XFELビームの発振技術の確立も本年度に行うことができた。 これによって、さらなるX線非線形光学現象の測定に向けて順調に準備をすすめることが出来たと言える。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は確立した高度な2色XFELビームを用いて非線形光学現象の一つである、X線コヒーレントアンチストークスラマン散乱(X-ray coherent anti-Stokes raman scattering; XCARS)の観測に挑む予定である。 試料は、炭素を含んだ高分子薄膜試料(ポリメチルメタクリレート・ ポリブタジエン・ポリイソプレン)を用いる。XCARS信号が観測可能であること、およびそれぞれの試料ごとにXCARS信号が異なることを証明したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響のために予定していたSACLAでの実験の回数が減ったため、予定していた試料やパルスモータステージの購入を差し控えた。 次年度にこれらの物品の購入を行う予定である。
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