研究課題/領域番号 |
19K20607
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
菅原 健人 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 放射光科学研究センター, 技術員 (80831304)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 放射光X線 / 計測技術 / レイトレース法 / 磁化測定 / 磁性体 / 蛍光X線 |
研究実績の概要 |
本研究では硬X線領域にてFe等の希土類磁性元素において感度の高いX線磁気円偏光発光を応用した新しいタイプの磁気光学顕微鏡について、その受光系の最適な調整法を見つけ出すために実験とシミュレーションの両面での研究を進めている。本年度は主に受光系に2結晶分光器を用いる事で可能となる深さ分解測定の実験と平行化素子であるモンテル型多層膜ミラー下流の2次元強度データおよび角度発散データの解析を行った。 昨年度末にも2結晶分光器を用いた深さ分解測定を行ったが、本年度はレイトレース法による深さ分解シミュレーション結果に基づき、深さ分解能が最も良くなることが期待される配置にて実験を行った。測定対象は昨年度に引き続き電磁鋼板試料を用いた。深さ分解測定の効果を確認するために、試料表面と試料内部にて磁区の構造に変化があると期待される異常磁区と呼ばれる磁区の周辺において深さ分解の測定を行った。結果、定性的ではあるが表面から深部へ行くにつれて、異常磁区の領域が小さくなる様子や異常磁区が主軸の下に潜り込む事を示唆する測定データが得られた。 平行化素子であるモンテル型多層膜ミラーの調整方法については、本年度は昨年度に測定したミラーの各配置での2次元強度データと同配置条件下で下流に2結晶分光器を設置して測定した角度発散データの解析を行った。前者は強度を規格化したbitmapデータに変換し画像間の比較ができる準備を行い、後者についてはプロファイルの自動フィッティングを行い、全測定データに対し角度発散値を算出した。 本年度はこの磁気光学顕微鏡装置についての装置論文(DOI:10.1063/5.0058201)を筆頭著者として投稿した。また、この磁気光学顕微鏡を用いた2種類の測定技術に関する国際特許を2件(PCT/JP2021/44469、PCT/JP2021/44470)出願した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では計画当初、モンテル型多層膜ミラー下流の2次元強度データとレイトレース法によるシミュレーションデータを組み合わせて機械学習等を行い、モンテル型多層膜ミラーの調整の最適化を目的としていた。ところが、角度発散の実測が可能になった事とその副産物として深さ分解測定が可能な事が示唆された事から、その重要性を考え、計画を変更した。その結果、実測の角度発散データも含めた調整方法の最適化の模索と深さ分解測定手法の確立を行う事とした。一方で、角度発散データについては実測できるようになったことで、レイトレース法によるシミュレーション結果と比較する事が可能になったが、結果として実測値がシミュレーション値より数割大きめである事が分かり、現在のレイトレース法のシミュレーションモデルでは定量性に課題がある事が判明した。また今年度は実測した2次元強度データと角度発散データについて対応付けを行い、新たに測定した2次元強度データと過去に角度発散データとセットで測定した2次元強度データとの類似性から角度発散値が最小になる配置を算出する予定であったが、上記に示した計画変更の影響と他の業務の影響から、計算するシステムの構築に十分な時間を割く事が出来なかったため、今年度中に目的とするシステムを構築する事が出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、当該年度に実施完了出来なかったモンテル型多層膜ミラーの下流の2次元強度データと角度発散データの関連付けを行い、今後少量の2次元強度データの測定のみで角度発散が小さな箇所を探索するシステムを構築する。そのためbitmap化した2次元強度データのハッシュ値等を計算し、画像間の類似度とそれぞれの画像の測定配置での角度発散値との関連性等を調査する。また個々の2次元強度データの比較だけでは焦点距離方向の最適化が難しい可能性が高いため、近い配置で測定した2次元強度データとの比較や2次元強度データそのもの形状変化に焦点距離による影響が無いか、特に焦点位置を跨ぐことで何らかのパラメータ値の傾向の変化が無いか等を調査し、2次元強度データから可能な限りの情報を得るようにする。レイトレース法については、現在定性的には実験データを再現してはいるが、角度発散値の評価では実測値を再現しきれていない等の課題があるため、多層膜や理想形状からの歪み等、シミュレーションモデルの改良等を実施し、より定量的な評価ができるようにする。 また深さ分解測定技術についても測定データに対し改良したレイトレース法と組合せ、分解能関数の導出や解析を進める。以上、これらの結果の取り纏め、発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度にて磁気光学顕微鏡の調整システムに必要な各種機材の調達を行おうとしたが、研究の進捗の遅延と年度内に納期が間に合わない機器等が多数存在した事から次年度使用する額が生じた。
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