研究課題/領域番号 |
19K20609
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
佐藤 大輔 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究員 (40780086)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 誘電体アシスト型加速管 / 高周波加速管 / セラミックス |
研究実績の概要 |
本研究は、既存の金属加速管における加速管性能の限界を超える電子加速技術として、高誘電率誘電体の高い電磁場蓄積能力と放電耐圧特性を応用した誘電体アシスト型加速管を新たに提案し、既存の常伝導加速空洞の①10倍以上高い加速効率を実現しつつ、②100 MV/m以上の超高加速電界を励振可能であるということを実証することを目的としている。 研究初年度は、①高誘電率誘電体の基礎物性(2次電子放出係数等)計測と②高誘電率誘電体を用いた誘電体アシスト型加速管の最適化・高性能化の検討について行った。①に関しては、まず、比誘電率が15以上で比較的低損失な商用のセラミックスの2次電子放出係数の測定を実施した。本測定では、計測対象のセラミックサンプルに電子ビームを照射し、サンプルから放出される2次電子を計測する。この入力と出力のビーム電流差が2次電子放出係数となる。そして、本研究では、この2次電子放出係数が小さいセラミックスを求めて多数のサンプルの計測を行った。また、比較のために誘電体アシスト型加速管のプロトタイプ機に使用したマグネシアの2次電子放出係数も計測した。その結果、高誘電率サンプルの2次電子放出係数はマグネシアの値の約60%と小さいことが明らかになり、この点に関しては誘電体アシスト型加速管の性能改善につながる成果が得られた。 次に②に関しては、既存のセラミックス材料の複素誘電率を使用して、室温で最も加速管効率が高くなる誘電体アシスト型加速管を電磁場シミュレーションで計算した。その結果、比誘電率が約25という比較的高い値を示すBMTセラミックスを用いることで最も加速管効率が高くなるという結果が得られ、その効率は、プロトタイプ機より40%、既存の金属加速管の約6倍以上にもなるという結果が得られた。なお、本結果に関しては、査読付き国際誌への論文投稿という結果に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初から課題としていた①高誘電率誘電体の基礎物性(2次電子放出係数等)計測と②高誘電率誘電体を用いた誘電体アシスト型加速管の最適化・高性能化の検討について、共に当初の予定通りの研究が実施され、十分な研究成果が得られた。本年度の①と②の研究の成果は、本研究の中核である、「高誘電率誘電体を使用することで高効率かつ高加速電界での運転を可能にする」ことの正当性を支持する結果であった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究で得た知見をもとに、電力効率が最大となる誘電体アシスト型加速管の実機設計・製作・性能評価を行う。設計の際には、加速管性能以外に、製作誤差に起因する共振周波数シフトの見積やその補正方法、電力入力結合器の高周波設計なども実施する。これらの設計をもとに、セラミックス・ガラス製造会社や機械加工会社等と連携して誘電体セルや金属筐体等の精密製作加工を行い、最終的には各パーツをロウ付けして加速管として組み上げる。その後、製作した加速管は、ベクトルネットワークアナライザーを用いて共振周波数、Q値、電場分布等を計測し、これらの計測結果から加速効率を算出する。最終的には、高電界試験まで実施し、性能向上を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画を策定した当初、高誘電率誘電体の2次電子放出係数等の計測に向けて、5 keV以下のエネルギー範囲でエネルギー可変の電子銃を用いて、2次電子放出係数測定装置を製作し、各候補材料における2次電子放出係数のエネルギー依存性を計測する予定としていた。本研究活動を開始後、絶縁体の2次電子放出係数の測定装置を所有する研究者からの研究協力を得られることとなり、当該装置を一から製作するという課題が解消されたため、次年度使用額が生じた。 ただ、計測を進めていくうえで、二次電子放出係数は測定対象の温度などに対して依存性があるという傾向がみられており、これらの詳細な計測に向けて装置の改造(温度変化機構、温度測定システム等)の必要が出てきた。そのため、次年度使用額として生じたものに関しては、当該装置の改造等に使用する。また、翌年度分として研究策定当初より請求した助成金に関しては、研究計画通り、誘電体アシスト型加速管の実機設計・製作・評価等の費用として利用する。
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