2023年度はこれまでに実施した実験の分析結果をまとめた論文を執筆し、芸術工学会誌へ掲載された。本研究の研究機関全体の実施内容と成果を以下に述べる。 まず、デジタルサイネージの既往研究や事例を調査し、デジタルサイネージコンテンツガイドラインをベースとして、駅構内の避難誘導のための実験用モデルを作成した。それらはデジタルサイネージにおけるモーショングラフィックの影響について調べるため、誘目し記憶させたい要素として「現在地」「避難場所」「出口番号」「災害状況」に対して「動きなし」「フェードイン・フェードアウト」「上下のスライド」の3種類の動きのパターンを作成した。 次に、聴覚障害者を対象とした実験を実施した。災害時であることから5秒間の注視ののち、先に挙げた動きを適用したモデルごとに、主観評価および表記内容の記憶を問う設問を課した。 そして、得られたデータを整理し、複数の角度から調べるため、モデルおよび主観評価、正解数、表記内容等の項目ごとにクロス集計し有意に差があるか分析した。 結果、「動きなし」は、いずれの場合も評価が低く、自由記述において、色や動きに対する提案が多いなど、読み取りに対してストレスを与え、重要情報のスムーズな伝達が妨げられていたといえた。一方、本研究のモデルにおける分析結果からは「フェードイン・フェードアウト」がいずれの評価の場合においても比較的効果が高かった。 これにより、本研究においてデジタルサイネージへモーショングラフィックを取り入れることは、動きがない場合と比べ、読み取りやすさを向上させると結論づけられた。そして、画面表示のモーショングラフィックに関するユニバーサルデザインにおける基礎的な研究として成果を上げることができたと言える。
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