本研究課題では,映像酔いを引き起こす因子として周辺視野からの情報が大きく影響するという仮説を唱え,周辺視野領域の画像要素を任意に変更することができるVR映像コンテンツを開発し,このシステムを利用している際の生体情報を定量的に評価することで映像酔いを引き起こす因子の特定および,その軽減・予防方法の確立を目指す. これまでに実験に使用するVR映像コンテンツの開発を行い,周辺視野領域に配置した3Dオブジェクトの飛び出し量によって局所能血流量および重心動揺に現れるパターンが変化していることを確認した.また,映像酔いの予防技術への取り組みとして,ヒトが知覚することができないレベルのノイズを前庭器に印加し,「前庭器からの応答を一時的に過負荷な状態にする」ことで,感覚の不一致を低減する方法を試行した.これらの結果を踏まえ,令和4年度では,印加するノイズ電流の種類に着目することで,前庭電気刺激(GVS)のノイズパターンがVR体験中の体平衡機能および自律神経機能に及ぼす影響について調査を行った.被験者は健常若年男性17名を対象とし,測定項目は,重心動揺,心電図,主観アンケート(VAS,SSQ)とした.視聴するVR映像は富士急ハイランドが公開しているジェットコースター体験中の映像を使用し,映像提示にはHTC社のVive Pro Eyeを使用した.本実験ではVR映像視聴前および視聴後における重心動揺と心電図の計測を1試行とし,ホワイトノイズ印加時,ピンクノイズ印加時,コントロール時(電流の印加なし)で計3試行実施した.GVSは3分間のVR映像視聴中でのみ印加し,ブラインド試験のためコントロール時においても刺激用電極は貼付した.本実験の結果より,GVSのノイズパターンによってはVR映像視聴後の身体のふらつきを調整できる可能性が示唆された.
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