研究課題/領域番号 |
19K20621
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
高橋 雄三 広島市立大学, 情報科学研究科, 助教 (30326425)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 人間工学 / 仮現運動 / 主観的輪郭 / 視線カスケード現象 / 視空間の歪み |
研究実績の概要 |
道路・航空・船舶等での交通事故やプラント・オペレーション等の事故原因の一つに,計器をモニタリングする人が運動する物体(または運動知覚を生じさせるCGやアニメーション)を知覚する際,背景となる視空間が歪んで知覚される現象の関与が考えられる.視空間が歪む原因は多岐にわたり,刺激と参照枠との間の関係で論じられる『錯視』だけでなく,対象の運動によって誘発されるサッケードによる視空間の圧縮や比較照合時の選好反応に起因する選好判断前の視線カスケード現象も,その原因として考えられる. 令和二年度はコンテンツ・デザインで多用される技術である仮現運動によって提示された運動する対象に対する視線カスケード現象の諸特性と好悪反応の一つである瞳孔反応との関連について検討を進めた. 分析対象は準備した4種のキャラクターが「首を傾けて微笑する」動作を行っている時の参加者の眼球運動と瞳孔径とした.好悪の誘発は表情を構成する部位(眼,口元,頭部)の運動に時間差がある条件と時間差がない条件とした.解析区間は参加者がボタン押しによる強制二択式選好判断を行った時点から1650ms前まで遡った区間とした.分析に際し注視確率の推定に影響を及ぼす測定時の外乱を補正するアルゴリズムを開発し,視線位置のサンプリングが低い環境下でも頑健に注視確率が推定できることを確認した.併せて同区間の瞳孔系の変動を分析した.分析の結果,実験後の聞き取り時の選好判断とボタン押しによる選好判断が一致する場面では視線カスケード現象が開始したと推定される時刻の160-650ms程度先行して,瞳孔の縮小反応が起こる確率が高いことを確認した. 以上より,強制二択式選好判断に限らず,何らかの認知的な意図を含む注意が向けられた際,対象に対して視線の偏りが生じるとともに,意思決定前に瞳孔径の急激な縮小とその後に続く緩やかな散大が起こる可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和2年度は新型コロナウイルス感染症感染予防の観点から,令和元年度計画の実験の追加実験や当初計画の新規の実験実施がストップしている. しかし,その中で,好悪反応を伴う視線カスケード現象同定のための視線位置補正のアルゴリズムの開発を行い,サンプリングレートが低い(データ点数が少ない)条件でも,先行研究で示されている確率曲線が導出できる可能性を見出した.併せて,視線の偏りの時系列変化を分析する過程で,一般に好悪反応を捉えることができるとされている瞳孔径の時系列変化において,視線の偏りが生じた時点より160-650ms程度前の時点で瞳孔の縮小が起こる現象を確認した.そこで,眼球運動測定装置を当初計画に追加して購入し,瞳孔反応を測定できるようなソフトウエアの改造に現在着手している.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度も引き続き,不特定多数の参加者を募った実験の実施は困難であることが予想される.そこで,ワクチン接種の進展にも依存するものの,少数の,統制された参加者集団を設定し,接触感染や飛沫感染に対し,最大限の対策を行いつつ,小規模の検証実験が実施できないか,現在,検討中である. 併せて,前年度より継続している,瞳孔径の変化をより的確に捉えられるように解析ソフトウエアの改造を達成することで,瞳孔径の変化から対象への注意の向け度合いや,仮現運動によって対象を好ましく認知する(空間の歪みに由来する錯視現象など)現象を捉える可能性について検討する計画である. さらに,令和3年度も新型コロナウイルス感染症への感染拡大予防の観点から,測定機器の共有による感染を予防する対策や,参加者と実験者の密接を防ぐ対策,密閉を伴わない実験室の再構築などに取り組む必要があり,当初計画を超えた,あらたな研究計画を模索している. しかし,感染収束が見通せないことから,実験の実施の次年度への繰り越しや,現在までに採取しているデータに基づく計算機シミュレーションへの計画の変更など,本研究の成果につながるあらゆる施策を柔軟に検討していく
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大のため,令和2年度に参加を予定して国内での学会・研究会がキャンセルまたはオンライン開催となったため,当初計画で予定していた旅費が執行されなかった.また,計画していた実験が年度内に実施することができず,計画していた人件費の執行が行われなかった.さらに国際会議の中止や延期,実施形態の変更に伴い,投稿・参加準備にかかる費用が執行されなかったことが重なったことから,前年度からの次年度使用額が生じた.一方,令和2年度は実験の中止・延期に伴う当初計画の変更によって,当初計画になかった瞳孔径の測定が追加となり,新たに装置の購入やソフトウエアの改造が必要となった. そこで,現段階では前記の装置の導入と未執行の予算の差分である令和2年度からの次年度使用額と当初計画からの変更によって生じる予算を併せて,令和3年度中に実験が再開できなかった場合の計算機シミュレーションの実施準備にかかる費用や新型コロナ感染症感染拡大予防に必要な装置や対策費(消毒液などの消耗品)に計画変更した上で執行して行く予定である.
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