研究課題/領域番号 |
19K20621
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研究機関 | 広島市立大学 |
研究代表者 |
高橋 雄三 広島市立大学, 情報科学研究科, 助教 (30326425)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 人間工学 / 仮現運動 / 主観的輪郭 / 視線カスケード現象 / 視空間の歪み / 瞳孔反応 |
研究実績の概要 |
令和3年度は前年度までに瞳孔径の測定環境を強化した実験環境において,新たな実験刺激を作成した実験を計画していたが,新型コロナウイルス感染症の蔓延により,前年度までに採取したデータ(2種の描画方法で刺激となる上半身が描画された人物が首を画面右側に傾けて目をつむり,同じ時間をかけて元の首の位置と表情に戻る動作)に対する分析・検討を実施した. 第1段階として,視線カスケード現象における偏向注視開始点を同定するためのアルゴリズムの確立を行った.第2段階として,偏向注視開始点の直前に発生する縮瞳との間の関係について検討した.刺激提示後から偏向注視開始までの時間が短い試行では,刺激提示後から縮瞳開始までの時間が,偏向注視開始に先行して短かった.続いて,縮瞳開始からボタン押しまでの時間と偏向注視開始からボタン押しまでの時間との間の回帰分析を行った結果,相関係数0.91の正の相関関係が得られた.しかし仮現運動を利用した刺激内の部位(首,眼,口)が時間差を持って運動する条件と全ての部位が同時に動く条件並びに刺激の描画方法・性別との間に顕著な差が求められなかったため,第3段階として偏向注視開始後に発生する散瞳を追加し,検討を行った.検討の結果,刺激内における部位の運動の有無の影響は観察されなかったものの,偏向注視開始後の散瞳量は刺激を写実的に表現した際に大きくなる傾向が示唆された.併せて,縮瞳量は刺激の表現方法が抽象的な条件に比較して写実的に表現した方が偏向注視開始前の縮瞳量が小さくなる傾向が観察された.また縮瞳,偏向注視,散瞳が発生した約61%の試行で縮瞳-偏向注視-散瞳行動が観察された. 以上より,印象評価(選好判断)において縮瞳-偏向注視-散瞳という行動モデルが示唆されたことから,仮現運動における視空間の歪みには偏向注視開始前後の縮瞳と散瞳の強度が強く関わっている可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では計画している実験においては,(1) 機器の共有(眼球運動・瞳孔径測定装置入力装置など)と(2) 実験者と参加者との間のソーシャルディスタンスの確保並びに近接時間の短縮が困難(測定装置の装着並びに装着機器の調整など)である.代替装置の準備・購入や代替パラメータへの変更など,代替実験への変更や実験者・参加者双方のワクチン接種者に限定した実験の実施も検討したものの,令和3年度は長期期間にわたり,緊急事態宣言(令和3年5月16日~6月20日,8月27日~9月30日(8月20日~27日はまん延防止など重点措置))やまん延防止等重点措置(令和4年1月9日から3月6日まで)が実施され,また,若年者への2回目のワクチン接種の遅れがあったこと(一般若年者;7月以降開始,2回目接種8月開始)により,緊急事態宣言またはまん延防止等重点措置の解除期間中もワクチン未接種者が多く,さらに感染予防策として被験者に行動制限(感染者拡大地域との往来制限や10日程度の飲酒提供店への入店制限など)を参加者に強いることとなることから,上記の状況を総合的に判断し,令和3年度は実験そのものの実施を停止することとしたため,研究の進捗が遅れることとなった.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は令和3年度までに実施することができなかった検証実験を実施し,仮現運動による視知覚空間の歪みの原因について,当初計画における眼球運動パラメーターに加えて,瞳孔反応(縮瞳,散瞳)の観点からも検討する.また,刺激人物の描画方法や性別など,刺激側の因子において,今まで用いてきた刺激では部位の運動の強度が弱いことも示唆されてきたことから,刺激については新たに作成する.特に,参加者に提示する刺激の種類については,仮現運動とCGの比較に重点を置き,令和3年度までに得られた「縮瞳-偏向注視-散瞳」行動モデルにおける縮瞳量と散瞳量が仮現運動の知覚強度に影響を及ぼし,この知覚強度が視知覚空間の歪みと関連する可能性について検討する. 感染収束は現段階では見通せないものの,新型コロナウイルス感染防止策については昨年度と比較して格段に多くの知見を得ることができたことから,昨年度同様,感染拡大状況によってはシミュレーション研究への移行も視野に入れつつ,検証実験による知見に基づく,インタフェースデザインへのデザインガイドラインのための知見を収集することを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大のため,感染防止の観点から計画していた実験を実施することができなくなったため,当初計画してた装置の購入費,人件費などを執行することができなかった.また,令和3年度に参加を予定して国内での学会・研究会がキャンセルまたはオンライン開催となったため,当初計画で予定していた旅費が執行されなかった.さらに国際会議の中止や延期,実施形態の変更に伴い,投稿・参加準備にかかる費用が執行されなかったことが重なったことから,前年度からの次年度使用額が生じた.
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