研究実績の概要 |
『源氏物語』は平安時代に成立した和文体の長編物語である。各時代を通じて広く読み継がれ、『源氏物語』を対象とした研究も同様に古くから行われてきた。『源氏物語』の研究テーマは多岐にわたるが、計量的な観点による研究が有効であると思われるものに作者問題と成立過程の問題がある。作者問題は『源氏物語』の第三部と称される最終13巻(匂宮三帖と宇治十帖)の作者が紫式部ではないとする見解であり、成立過程の問題とは『源氏物語』は現行の巻の配列と成立順序は相違するという見解である。 本研究ではこれらの研究テーマについて、機械学習の手法を用いることで単語の出現率などの分析を行った。その結果、『源氏物語』における他作者説を支持する積極的な根拠は認められず、他の諸巻と作者が同一である可能性が高いことを明らかにした。また、『源氏物語』の成立過程についても、現行の巻序とは異なる順序で成立した可能性を指摘した。これらの研究成果については、『Quantitative Approaches to Universality and Individuality in Language』(共著, De Gruyter, 2022)に取りまとめ報告した。また、これに加えて、本研究において用いた、文学作品のテキストデータを対象とした計量的な分析に有効な手法を『文理融合データサイエンスの基礎』(単著, 学術図書出版社, 2022)にまとめ、出版した。
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