2021年度の研究計画について,一部変更しながらもおおよそ目標を達成することができた. 第一に,情報社会における監視主体・監視媒体に生じたカタストロフが信頼行動に与える影響については,ポジティブなカタストロフであるウィンドフォールに着目して,思いがけない幸運にあうと,個人が実質的に利己的になること,他者を利己的にすることを指摘した. 第二に,オンライン実験手法の公開として,本研究がターゲットとするインタラクションのある経済ゲーム実験については,その構造の複雑性から実験の実施が容易ではないが,適切な実験プログラムを利用すれば実験を構築は可能であることから,セミナー等での報告を通じて,ノウハウを公開したり著書の執筆(現在進行中)を行うなどの活動を行った. ただし,依然として世界中で猛威を奮い続けているコロナ禍の影響により,同一の目標のもと,2020年と同様に当初の研究計画を変更しながら進行した.具体的には,ラボ実験を中止した上で,クラウドソーシング実験のみを実施した.さらに,コロナ禍を受けて,2019年度に実施した市民・国民が監視主体・監視媒体に対して抱く信頼の現状の把握を目的とする調査を2021年度までパネル調査として引き続き調査を実施した.特筆すべき点は,コロナウイルスに関する健康情報については監視を高く許容するという点であり,コロナ禍の期間が進むにつれて,監視の許容度が逓減していくことも明らかとなった. 研究業績としては2021年度にはクラウドソーシング実験による査読付き論文が3件(国際共著1本,個人単著2本)の掲載および,その他2件(共著ファーストオーサ2件)が掲載決定となるなど,一定程度の成果を上げることができた. 今後の課題として,カタストロフによりどのように選好・好みが影響を受けるのか,短期的な経済実験と中長期的な経時的なパネル実験をあわせて体系的に解明を試みる必要がある.
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