本研究の目的は、特に魚や鳥の群れの代表的な振る舞いである形態形成、情報伝達、探索行動の3つの振る舞いを同時に実現できる包括的アルゴリズムを解明することである。本研究では、申請者の提案する個体間の不完全な指示による相互作用モデルを包括的アルゴリズムの候補とし、他の2つの代表的アルゴリズムとの比較と、鮎の群れによる実験的評価を同時に行うことで、これまでのモデルに変わる新しい基盤となる群れのモデルの構築を目指すものであった。 代表者は、包括的な群れのモデルの作成に成功し、現在その結果をまとめているところである。このモデルにより、不確定なやりとりを通して得られる群れがさまざまな特性(形態形成、探索行動)を示すことを明らかにした。さらに、群れ特有と思われる情報伝達方法とそれに付随する構造を発見している。特に、群れの中のゆらぎダイナミクスと実際に観察されるダイナミクスの間に、AND的相互作用とOR的相互作用の非対称性を発見しており、群れのダイナミクスにおいてこれまで知られてこなかった新しい事実が代表者の考案したモデルから引き出せることが期待できる。これらの結果から見ても代表者が最初に掲げた目的は十分達成されたもの考えられる。 さらに、相互作用の不定さを実証するものとして、代表者は統合情報理論を用いた相互作用分析を行なった。これにより、代表者は、動物の群れ(鮎の群れ)の相互作用は足し算のような単純なものではなく、群れのサイズに応じて異なる因果構造を織り込んだ豊富な相互作用を示唆するものであることを明らかにした。これらの研究はすでに国際論文雑誌に発表済みであり、国内外から高い注目を集めている。
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