本研究は運動主体感に対するメタ認知、すなわち、「自分が制御している」という主観的な感覚に対してどのぐらい確信を持つのかという認識を研究テーマとしている。運動主体感のメタ認知の行動レベルの特徴を解明し、さらにその神経基盤を解明することを目的とする。2020年度は以下の研究を行ってきた。 (1)運動制御の変化の検出と適応的運動学習の効率の関係性を、個人差のアプローチを用いて検討した。その結果、運動制御の増加を敏感に検知できる人は、適応的運動学習も早いことが分かった。一方、運動制御の低下に対して敏感さは適応的運動学習の速さと関連しないことも分かった。運動主体感の増加と減少を知覚する認知プロセスはそれぞれある程度独立し、運動学習に異なる関連を持つことが考えられる。本研究の成果は現在投稿論文としてまとめている段階である。 (2)運動検出課題を用いて、運動主体感の判断と運動主体感のメタ認知に用いる下位プロセスの違いを実験で検討した。具体的に、2つの物体から自分が制御できるターゲットを検出する運動検出課題を用いた。自分が制御できるドットにおいて、一定な角度誤差を入れる条件と他人の運動を混ぜる条件を組み合わせ、ドットの運動と自分の運動の間の規則性と予測誤差をシステム的に操作した。そこで、他人の運動の割合を試行ごとにステアケース法で調整し、運動検出課題の正答率を一定なレベルに固定したうえ、回答の自信を問うことでメタ認知のパフォーマンスを測り、規則性検出と予測誤差がメタ認知に与える影響を調べた。ここれまでに、合計47人の実験参加者に対して実験を行い、運動主体感のメタ認知の感度と実際の制御能力の関連性を発見した。本研究は現在、解析と解釈の方針について、海外の共同研究者と議論しているところである。
|