本研究では、顔が関わる視聴覚統合であるマガーク効果と観察者の個人特性(自閉症傾向)との関連性から、マガーク効果の個人差に関わる観察者側の認知様式の多様性とその背景となる神経基盤を検討することを目的とする。 令和四年度は、これまでに得られた研究成果の公表を進めるとともに、観察者側の認知様式の多様性(個人差)の検討として行動実験を、また多様性の背景として想定される個人特性(自閉症傾向)の検討として調査研究をそれぞれ進めた。行動実験では、日本人の大学生を対象に、マガーク課題を遂行中の視線パターンをアイトラッカーを用いて測定し、また、観察者の個人特性として自閉症傾向を測定して、錯覚生起との関連性の検討を進めた。実験実施に際しては、行動制限等も影響し当初計画のデータ数(約50名)には満たなかったものの、現在は30名(無効データ含む)以上のデータを測定済みであり、本研究期間後も当初予定数までデータ取得を行い検討を進めていく。また、調査研究では、自閉症傾向に関連する主観的な感覚処理の困難性について検討を進め、自閉症傾向が高い人は、外受容感覚だけではなく、内受容感覚に対しても主観的な困難性を示すことを明らかにした。研究成果の公表に関しては国内・国際学会での研究発表を行ったほか、国際誌への投稿も進めており、調査研究の成果についてPsychological reports誌やScientific reports誌に採択されている。 研究期間全体を通して、本研究の一連の検討により、顔が関わる視聴覚統合の多様性のメカニズムの一端を明らかにできたと考える。つまり、視覚と聴覚を統合することで情報が効率的に処理される場面においても、各感覚情報の重み付けは、観察者側の認知様式によりばらつきが生じること、またその背景に左上側頭溝の働きが関与することが示された。
|