研究実績の概要 |
本研究では,ヒトの心的表象操作能力の進化過程,すなわち,ヒトが目の前にある物体を実際に手で動かす前に,その物体を心的に表象し操作する能力はどのような進化の過程を経て発生したのかということを解明することを目的とした。これまでに,研究代表者は,ラットを対象に道具使用課題を実施することで,齧歯類の心的表象操作能力について検証した。2019年度は,この研究成果を2本の論文として発表した (Nagano, 2019, PLOS ONE; Nagano, 2019, MethodsX)。 心的表象操作の進化過程を解明するためには,ラットを含む齧歯類と共通した祖先をもち,ラットと同様に野外での道具使用が報告されていない動物種を対象とした検討も不可欠である。そこで今年度は,霊長類の1種であるコモンリスザル4個体を対象に,ラットと同様の道具使用課題 (Nagano & Aoyama, 2017) を実施した。この実験では,リスザルに対して,道具の見た目と機能に矛盾がない場面と矛盾がある場面で,道具の特徴に基づいて,餌獲得のために適切な道具を選択できるか否かを検証する課題を実施した。検証のために,2つの道具を提示し,それらの道具のうちいずれか1つの道具を選択させた。その結果,テストにおいていずれの被験体も,道具の機能と見た目に矛盾がない場面であっても適切な道具を選択することができなかった。また,追加で行ったテストでは,ラットとは異なり,餌の背後には道具の一部分がないように見える選択肢を選択する傾向が見られた。2019年度の実験から,心的表象操作能力が進化の過程で発生し引き継がれた能力だけでなく,動物種ごとに異なる能力とも関連していることが示唆された。
|