心的表象操作とは,目の前にある物体を実際に操作しなくても,その物体を操作したときの結果を推測することのできる能力である。この心的表象操作能力の進化過程を検証するための手段として,複数の動物種を対象に道具使用課題を実施し,それらの動物種の物理的因果理解能力を比較するという方法が挙げられるが,従来の研究では各動物種ごとに異なる課題が用いられていたため,個々の動物種が各課題における問題解決能力を有するか否かということについての離散的な検討に留まっていた。本研究では,研究代表者が過去にラットを対象に行った道具使用課題を,コモンリスザルに対しても実施することで,それらの動物種の心的表象操作能力の直接的な比較検討を行った。 今年度は,これまで得られた研究結果をまとめ,書籍の章や論文,学会発表という形で報告した。まず,ラットの道具使用および非ヒト動物全般の道具使用についての章を執筆した。その章を含む書籍『The Routledge International Handbook of Comparative Psychology』が8月に出版された。更に,ラットの物理的因果理解能力についての論文2本が,「Current Psychology」と「Frontiers in Psychology」にそれぞれ掲載された。また,コモンリスザルの物理的因果理解について,日本動物心理学会第82回大会にてポスター発表を行った。
|