研究課題
癌幹細胞は正常幹細胞と同様に自己複製能、多分化能を有し、さらには薬剤耐性を持つことから、癌の再発の原因となるため治療標的として着目されているが、癌幹細胞は癌組織中に極めて少数しか存在しないため、その性状解析には効率的な誘導法の開発が求められる。我々は、生体適合性を有する数種類の高機能ハイドロゲルを用いて癌細胞株を培養すると、24時間以内に幹細胞性に関与する遺伝子の発現が亢進することや、脳腫瘍細胞株においては、長期間特定のハイドロゲル上で培養すると不可逆的な幹細胞関連遺伝子の発現の獲得や、マウス生体内での著明な腫瘍形成能の亢進を見出している。本研究では、高機能ハイドロゲルからの刺激により癌幹細胞が不可逆的に誘導される現象を、後天的な刺激により遺伝子発現に影響を及ぼすエピジェネティックな変化に着目して解析し、エピジェネティクスを介した癌幹細胞発生機序を明らかにすることが目的である。我々はこれまでに成分や性質の異なる各種ハイドロゲル上で培養したヒト脳腫瘍細胞株KMG4を用いて、(1)ヒストンH3K9修飾酵素の遺伝子発現亢進や修飾状態の変化、(2)DNAメチル化酵素阻害剤およびヒストン脱アセチル化酵素阻害剤処理による幹細胞関連遺伝子Nanog、Oct3/4の発現亢進を見出した。当該年度は幹細胞性関連分子やエピジェネティック関連酵素の遺伝子発現が早期に認められた特定のハイドロゲルに着目し、遺伝子転写活性亢進が認められるオープンクロマチン領域を解析するためATAC-seq法を実施したところ、KMG4細胞ではハイドロゲル上でのみ認められる特異的な転写因子Xの結合モチーフが同定され、定量RT-PCR法にて転写因子Xの遺伝子発現亢進も認められた。特定のハイドロゲル上において転写因子Xが幹細胞性やエピジェネティックな変化に及ぼす影響についてはノックダウン細胞株の樹立を試み、解析を継続中である。
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Nature Biomedical Engineering
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10.1038/s41551-021-00692-2