研究課題/領域番号 |
19K20656
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
谷川 聖 北海道大学, 医学研究院, 助教 (00823353)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神経再生 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はハイドロゲルを用いて神経細胞に適した足場を作製し、神経細胞の3次元培養や神経再生を目指すものである。本年度はこれまで用いてきた顆粒状の足場に加え、多数の孔の空いたスポンジ状の多孔ゲルを作製した。この多孔ゲルは先行研究で用いた神経幹細胞が接着するモノマーの組成を採用し、モノマーを-16度の環境下で凍らせながら重合する方法を用いた。孔の大きさは約100 μmであった。 多孔ゲルを用いて神経幹細胞を培養したところ、孔に沿って神経幹細胞が接着し、3次元的に培養されることが確認された。また神経幹細胞はゲル上でニューロン、オリゴデンドロサイト、アストロサイトの3系統に分化し、ミエリン形成などを伴う神経・グリアネットワークを形成していた。 次にこの多孔ゲルをマウス脳内への移植実験を行った。方法として、マウスの頭蓋骨を一部除去し脳を吸引器で吸い取った後、多孔ゲルを移植してカバーガラスでcranial windowを作製し閉じた。同部位を2光子顕微鏡で経時的に観察したところ、術後2週間程度で多孔ゲル内部に血管網の形成が確認された。さらに移植後約半年経過したマウス脳を取り出し病理組織学的な検討を行ったところ、孔の内部に血管網に加え、脳実質からアストロサイトや神経軸索の侵入が確認された。 以上の結果は、再生組織での置換が起こらず、損傷を受けると3次元構造の形成が困難な脳において、3次元的な足場を提供し神経組織の再形成を促す可能性のある重要な結果であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は新たな培養基質として多孔ゲルを開発した。多孔ゲルはこれまで粒子状のゲルの課題であった培養液中で気質が流出してしまう問題点を克服し、さらにin vitroでの培養では3次元的な神経・グリアネットワークの形成を共焦点顕微鏡で観察することができたことから大きく前進したといえる。またin vivoの研究にも着手し、多孔ゲルのマウス脳内への移植、2光子顕微鏡を用いた経時的な観察など研究計画で記載した内容の多くに着手することができ、また血管網形成や神経組織の多孔ゲル内への侵入など良好な結果も得られている。
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今後の研究の推進方策 |
従来の細胞移植では、移植細胞の生着率が非常に悪いことや3次元ネットワーク形成が困難であるといった問題点があった。今回の研究で明らかとなった血管網を有する足場の形成はこれらの問題点を克服できる可能性がある。今後はこの領域にさらに細胞を移植する、2期的な細胞移植を行うことで、移植細胞の生着率が改善されるか、既存の脳組織との間にネットワーク形成が起こるか確認していく。またこれまではマウス神経幹細胞を用いてきたが、ヒト由来の神経幹細胞を用いて同様の実験を進めていく。
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