研究課題/領域番号 |
19K20662
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石島 歩 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任助教 (80822676)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超音波 / メカノバイオロジー / ニューロモデュレーション |
研究実績の概要 |
メカノバイオロジー分野では,in vitroで細胞を引張るなどの単純作用で得られた知見に基づき,生体応答や制御機構がどのように働くかを解明し,多くの成果を生み出した.生体内部に非侵襲的に機械刺激を作用させることを考えると,超音波はコスト等の観点で有力である.また,近年では超音波ニューロモデュレーション等において有効性が示されつつある.一方で,超音波によって,メカノトランスダクションが何故引き起こされるのかは明らかでない.そこで,本研究では,その発生機構の解明を目指すために,超音波により細胞へ与えられる力を定量計測する技術を開発し,目標とする生命現象を惹起する適切な印加物理量を明らかにすることを研究目的とした.具体的な研究目標として,高度な光イメージング技術と生化学的解析手法を駆使し,(A) 細胞を伝播するせん断波の高速計測システム構築,(B) 低強度超音波の細胞機能に対する影響解明,(C) 低強度超音波の細胞機能制御,を掲げた. 本年度は,研究目標(B) 低強度超音波の細胞機能に対する影響解明,を中心的に取り組み,サブMHz領域における超音波刺激の音響周波数依存性の新しい物理メカニズムを明らかにした.超音波刺激の物理的なメカニズムを解明することは,安全で効果的な超音波ニューロモデュレーションを行うにあたって,未解決の課題である.本研究では,サブMHz帯の低周波領域の超音波刺激において,キャビテーションが培養ラット大脳皮質神経細胞の活動を誘発することを明らかにした.一方,サブMHz帯の高周波領域では顕著なキャビテーション活動は検出されず,音響放射力によって神経応答を誘発した.超音波による神経刺激の物理的メカニズムが音響周波数に依存しており,サブMHz帯の低周波領域と高周波領域で異なる機械的効果が神経反応を誘発することを示した初めての成果である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,研究目標(B) 低強度超音波の細胞機能に対する影響解明,を中心的に取り組み,サブMHz領域における超音波刺激の音響周波数依存性の新しい物理メカニズムを明らかにした.超音波刺激の物理的なメカニズムを解明することは,安全で効果的な超音波ニューロモデュレーションを行うにあたって,未解決の課題である.本研究では,サブMHz帯の低周波領域の超音波刺激において,キャビテーションが培養ラット大脳皮質神経細胞の活動を誘発することを明らかにした.一方,サブMHz帯の高周波領域では顕著なキャビテーション活動は検出されず,音響放射力によって神経応答を誘発した.超音波による神経刺激の物理的メカニズムが音響周波数に依存しており,サブMHz帯の低周波領域と高周波領域で異なる機械的効果が神経反応を誘発することを示した初めての成果である.この結果は,音響周波数依存の物理的メカニズムを考慮して,超音波神経刺激技術を各音響周波数帯で最適化する必要があることを示唆しており,細胞への超音波刺激技術にとって重要な知見を得た.以上から,研究は順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
まずは,本年度に得られた成果を投稿論文として出版する.さらに,構築した超音波刺激が行える計測システムを駆使し,細胞ネットワークに着目した研究を進めていく.具体的には,刺激に用いる超音波の波長と刺激対象となる細胞のネットワークのサイズに応じた活動誘発を調査する.また,研究目標(C) 低強度超音波の細胞機能制御,を達成すべく,計測システムの改良も進めていく.
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