メカノバイオロジー分野では,in vitroで細胞を引張るなどの単純作用で得られた知見に基づき,生体応答や制御機構がどのように働くかを解明し,多くの成果を生み出した.生体内部に非侵襲的に機械刺激を作用させることを考えると,超音波はコスト等の観点で有力である.また,近年では超音波ニューロモデュレーション等において有効性が示されつつある.一方で,超音波によって,メカノトランスダクションが何故引き起こされるのかは明らかでない.そこで,本研究では,その発生機構の解明を目指すために,超音波により,目標とする生命現象を惹起する適切な印加物理量を明らかにすることを研究目的とした. 最終年度である本年度は,細胞培養法を改良することで細胞と超音波の空間スケールに着目した刺激メカニズムの解明を行った.具体的には,細胞の群としての超音波に対する応答と,細胞一つ一つの超音波にたいする応答を切り分けて調査することのできる実験系を構築した.これにより,細胞が超音波の圧力変動をどのように感じているのかを調査することが可能になった.さらに,昨年度までに得られた実験系を活用し,他の細胞種への超音波刺激も試み,神経細胞以外においても細胞が応答していることを確認した. 研究期間全体通じて得られた研究成果としてはサブMHz領域における超音波刺激の音響周波数依存性の新しい物理メカニズムを明らかにした.サブMHz帯の低周波領域の超音波刺激において,キャビテーションが培養ラット大脳皮質神経細胞の活動を誘発することを明らかにした.一方,高周波領域では顕著なキャビテーション活動は検出されず,音響放射力によって神経応答を誘発した.サブMHz帯の低周波領域と高周波領域で異なる機械的効果が神経反応を誘発することを示した初めての成果である.
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