心筋細胞の収縮力発生は,細胞膜での電気的活動と,それに伴い生じる大きな細胞内Ca濃度変化により引き起こされる.この電気・生理・力学的現象を理解するため,数多くのモデリング研究がおこなわれてきた.三次元構造での再現を行った前研究では,周期性と対称性を仮定した簡易化モデルを使用しているため,実際の構造や生じる形態異常の反映に制約がある.そこで本研究では,実形状を基としたモデルを用いた解析によって,病理状態と正常状態の細胞内挙動を再現する.走査性電子顕微鏡画像から小器官形状を取り出してモデルを作成し,構築した計算モデルでこれを解析する.得られた結果から正常と病理の比較を行うことによって,細胞構造がCa動態や収縮に与える影響を明らかにする. 昨年までに,正常マウスとMuscle Lim Proteinノックアウト(MLPKO)マウスの心筋細胞のSerial block face scanning electron micrograph画像を共同研究先より提供を受け,機械学習を用いてそのミトコンドリア・筋原線維の自動抽出に成功した.また抽出した形状を,シミュレーション可能なメッシュとする手法を確立した. 最終年度においては,正常マウスとMLPKOマウス両方について,マウス心筋細胞の実形状を反映した形状モデルを用いて力学電気生理連成解析を行い,膜電位やCa動態といった電気生理現象や,収縮現象の再現,比較を行った.今回使用した画像において,MLPKOマウスはControlと比べて筋原線維とミトコンドリアの配列の乱れを生じさせていた.その結果,大きなミトコンドリア柱の存在により拡散現象が阻害され,Ca2+濃度空間勾配がControlよりも大きくなることが明らかになった.さらに,このようにして生じた大きな濃度勾配により,収縮力の分布についても偏りが生じ,収縮の効率が低下することが示された.
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