本研究の目的は、免疫隔離能をもつマルチコア-シェル型の細胞ファイバーを作製し、内部に血管網を構築した高機能なマクロサイズ組織を開発することである。これにより、近年行われているiPS細胞から分化した体細胞を用いた組織構築技術に発展させ、細胞壊死を防ぎながら大きい組織を構築することで高機能な臓器などを再現し、かつ移植安全性が担保された新たな治療法が可能になると期待される。 最終年度は、マルチコア-シェル型のファイバーにヒトiPS細胞由来膵島をカプセル化し、それを糖尿病モデルマウスへ移植し治療効果を確認した。糖尿病モデルNOD-Scidマウスへ移植したところ最大6ヶ月の血糖値正常化を実現し、また長期移植の後、ファイバーを癒着なく取り出すことも可能であった。また、免疫正常C57BL/6マウスへ移植し、長期の安定性を調べたところ、1年移植後もファイバーの形態を維持し、移植マウス体内に腫瘍形成等も確認されなかった。これらの結果より、マルチコア-シェル型のファイバーは安全なカプセル化細胞の長期移植へ応用できると期待できる。 さらに、コラーゲン溶液に血管内皮細胞HUVECとヒト間葉系幹細胞hMSCを5:1または10:1の比で混合し、ファイバーを作製し、カプセル化した細胞の3次元共培養を行なった。共培養を行なったHUVECはゲル内で血管新生し、血管網を構築したのに対し、単一培養したものは培養後数日で死んでしまった。これはhMSCから分泌される液性因子がHUVECの成長を促進したからだと示唆される。血管網を構築した状態の組織を移植できれば、より効率的に細胞へ養分供給できるようになると考えられる。
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