研究実績の概要 |
肝硬変の発症化のプロセス(炎症→線維化→発症)において、初期段階である炎症反応には細胞膜の硬さが軟化することが重要と示唆されてきた。例えばSergentらは細胞膜の軟化という非常に早い反応(Min)により、肝臓の炎症・線維化過程が誘起される事を示唆している。しかし、複数種の細胞が関与するようなヒト肝臓モデルが存在しなかったため、実際に「細胞膜の軟化がヒト肝臓の炎症を誘起させ得るか」といった問いは未解決なままである。そこで本研究では、複数種の細胞が関与するヒトのミニ肝臓創出法(Takebe, Matsuzaki, ..., Taniguchi, Cell Stem Cell 2015 Front cover, Best of Cell Stem Cell 2015. Ouchi, ..., Takebe Cell Metabolism 2020.)を生かして、その炎症過程における細胞膜の軟化過程を精細に可視化する顕微鏡システムを構築した。そのベースとなったのが、iPS細胞の分化過程における膜の硬さをイメージングした技術である(Matsuzaki, ... Takebe, Stem Cell Reports 2018)。本研究では光学系を独自に改良を行い、その簡便かつ高精細化に成功している。実際に細胞膜の硬さを計測すると、ヒトのミニ肝臓においても一気に細胞膜の硬さが軟化していることを初めて可視化した。現在はその詳細な分子生物学的な機序の解明に挑んでいる。以上によって、臓器の疾病化を物理化学的なアプローチを用いて問いを解決へと導く新たな実験プラットホームの基盤を作り上げることに成功した。
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