本研究では,脳腫瘍組織を対象に硬さを指標とした病理標本の理解を目指し,硬さと分子分布との対応を検討した. 硬さの計測には広帯域集束超音波を用いた超音波顕微鏡を使用し,硬さの指標として体積弾性率に関係する固有音響インピーダンスおよび縦波音速の二次元像を使用した. 分子分布は質量顕微鏡を用いて二次元的に取得した.質量顕微鏡では質量スペクトルを取得し,脂質に注目して分布を同定した. 研究期間を通して以下の二つの点に重点をおいて研究を実施した. 1)ラット脳腫瘍モデルおよび健常ラット臓器の音響物性計測:脳腫瘍周辺の浮腫組織の音響特性の計測は困難であることを確認した.この原因を検討するために,組成の異なる臓器の計測をしたところ,音響物性の計測が困難な理由は脳組織が他の臓器に比べてタンパク質やコラーゲンの量が少ないことに起因することを確認した.信頼性の高い音響特性を収集するための試料処理のプロトコルを新規に作成し,心臓や肝臓などの先行例と同等の音響物性計測が可能となった.試料処理手法に関して Symposium on Ultrasonic Electronics 2020にて発表し,Young Scientist Awardを受賞した. 2)質量イメージング:質量顕微鏡を使用した質量スペクトルの計測を実施した.音響物性計測と隣接した試料を計測する試料作成プロトコルや計測プロトコルを確定させた.これまでに報告のあるSphingomyelin 以外にも腫瘍化に関係する分子の候補をいくつか確認することができた. 以上の成果から,生体組織の硬さと分子の関係性を検討し,硬さ分布と腫瘍に関係を持つ分子の分布に相違があることを確認した.
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