多指症手術時の廃棄組織から得られる軟骨細胞は幼若で増殖性に優れており、軟骨再生医療の細胞ソースとしては有力な候補である。その一方、多指症由来軟骨細胞は間葉系幹細胞や成人膝軟骨細胞とは特性が異なり、その特性は明らかではない。また、軟骨細胞は継代培養時に軟骨特性が徐々に失われることや、これまでの研究から多指症由来軟骨細胞はドナーにより硝子軟骨形成能が変動することが分かっている。そこで本研究では、変形性膝関節症の根治的治療を目標とした多指症由来軟骨細胞シート(PDシート)の実用化と安定供給を実現するため、多指症由来軟骨細胞の細胞表面マーカーを解析し、軟骨再生治療効果の高い細胞集団の同定を目的としている。 2019年度は、PDシートが発現する細胞表面マーカーの網羅的解析およびバリデーション試験をおこない、硝子軟骨形成能と正の相関を示す10個の細胞表面マーカーおよび負の相関を示す10個の細胞表面マーカーをマーカーセット候補として同定した。 2020年度は、マーカーセット候補より2つの分画に分離可能なマーカーに着目し、セルソートおよび特性解析を実施した。その結果、分離直後は細胞が発現する細胞表面マーカーにおいて差があるものの、分離後の細胞を用いて培養をおこないPDシートを作製した結果、特性解析において差を認めなった。これらの結果から、細胞表面マーカーは有効性の評価指標しての活用が可能である一方で、細胞分離による有効性が異なる細胞集団をPDシートより抽出することは難しい結果となった。 今後は、シングルセル解析を用いることでPDシートに存在すると予想されるヘテロな細胞集団を分類し、有効性に寄与する細胞集団の同定を継続する。
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