研究実績の概要 |
1.分化の制御 これまでに、中心波長823 nmの発光ダイオード(LED)光を用いた光生体調節作用(photobiomodulation, PBM)により、三次元培養皮膚の表皮の分化を促進できる可能性が示された。本年度は、まずPBMにより生じる変化について組織学的な解析を行った。その結果、PBM適用により、表皮の分化により顆粒層で特異的に生成されるケラトヒアリン顆粒が増加する傾向が確認された。次に、表皮分化の進展によるバリア機能の向上について評価を行った。細胞間の結合により生じる経上皮電気抵抗を測定した結果、PBM適用により同抵抗値が有意に上昇することが確認された。以上の結果から、PBMを用いることにより、三次元培養皮膚の表皮分化を促進でき、バリア機能の獲得に必要な期間を短縮できる可能性が示された。 2.分化状態の評価 これまでの検討をもとに、本年度は波長900~1700 nmの拡散反射スペクトルを解析する検討を行った。三次元培養皮膚に表皮側からハロゲンランプ光を照射し、拡散反射光を測定する実験を培養7日目まで経時的に行った。その結果、いずれの波長も、培養が進むほど拡散反射光強度は単調増加した。培養中、三次元皮膚の表皮角化細胞は分化により連続的に形態変化することから、同変化に伴う散乱係数の増大により、拡散反射光強度が上昇したものと考えられる。特に波長900~1350 nmの範囲では、生体分子による光の吸収がほとんど生じないため、散乱に起因するこの変化を高感度に捉えることができた。一方、水の吸収波長である1450 nm付近の拡散反射光強度は比較的低く、培養の終盤にのみ顕著な上昇が認められた。これは、表皮角化細胞の最終分化による疎水的な角質層の形成を捉えた結果であると考えられる。以上より、三次元培養皮膚の分化の状態を評価するために、拡散反射分光法が有用であることが示された。
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