紙上の潜在指紋の蛍光寿命イメージングによる可視化実験を、紙の色と励起波長を変えて行った。その結果、桃色の紙上の潜在指紋を波長532nmのパルスレーザで光励起した場合と、緑色の紙上の潜在指紋を波長450nmのパルスレーザで光励起した場合に指紋が可視化された(いずれの場合もパルスエネルギー約1mJ、パルス幅3-5ns)。これらの潜在指紋は、従来の波長フィルタや時間分解分光法を用いて可視化できなかった指紋であった。 蛍光寿命イメージングを用いて潜在指紋が可視化された上記2つの場合は、紙の蛍光強度が指紋より4桁程度大きかった。一方、紙の蛍光強度が指紋より2~3桁程度大きい場合は蛍光寿命イメージングを用いて潜在指紋が可視化されなかった。蛍光寿命イメージングでは、指紋が付着した紙の蛍光強度が大きい方が潜在指紋が可視化しやすくなることが可能性の一つとして浮上した。 また、蛍光寿命イメージ上で可視化された紙上の潜在指紋の蛍光寿命は、スライドガラス上で指紋単独で測定した蛍光寿命から有意に減少していた。特に、上記の桃色の紙上の潜在指紋の場合では、蛍光寿命がスライドガラス上で単独で測定した指紋は約4.6ns、桃色の紙が約3.7nsであったものが、桃色の紙上の潜在指紋の蛍光寿命は約3.4ns(いずれも誤差0.1ns程度)に減少し、大小関係が逆転していた。指紋と紙の何らかの相互作用により、指紋付着部の蛍光寿命が変化した可能性が考えられた。 研究期間全体を通した成果の総括として、従来の波長フィルタや時間分解分光法を用いて潜在指紋の可視化が困難な場合に、蛍光寿命イメージングを用いることでその指紋を可視化できる場合があることを示した。このことは、蛍光寿命イメージングが潜在指紋の可視化手法の新たな選択肢になりうることを示すものであり、法科学分野における指紋の非破壊可視化手法の拡大につながるものと考えられる。
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