脳機能計測技術であるfNIRSは、fMRIやPETと比べて、非侵襲、安全、低コスト、高時間分解能、携帯性などの利点があり様々な環境での脳計測を行える可能性を持っているが、皮膚血流の変動などによるアーチファクトの混入という計測上の大きな問題があった。そこで、fNIRSのこの問題点を解決して様々な環境での信頼性の高い脳計測を可能にするため、皮膚血流の影響を受けない手法であるfMRIとの同時計測実験を行った。 頭部の向きにより頭蓋内で脳表面が移動し、頭皮から脳表までの距離が変化して、それに伴いfNIRSの光路が変化する可能性を調べるため、仰臥位と腹臥位でMRI撮像を行い、脳表の位置を比較した結果、脳表の位置のずれは1mm未満であり、fNIRSの光路には大きな変化を及ぼさないことが確認できた。 頭皮とのプローブの接触面の変化がfNIRSデータに及ぼす影響を調べるため、顎の開閉と眉毛の上下のタスクを行った際のfNIRSデータを取得したところ、双方のタスクにおいて、fNIRSデータの波形は動作の開始後1秒以内の短時間に垂直的に変化し、動作の終了後1秒以内に元の位置に戻った。同時に計測したfMRIデータの変動との有意な相関は無かったため、脳賦活の変化による変動ではなく、頭皮とのプローブの接触面の変化による物理的変化であることが確認された。 皮膚血流変化を能動的に引き起こすタスクとして、15秒間の息止めや、15秒間のいきみ(バルサルバ法)を行い、その際のfMRIとfNIRSデータを取得した。双方のタスクにおいて、自律神経由来の血圧変動に呼応する形のfNIRSデータの変動が見られた。fMRIデータでは、脳の灰白質全体においてBOLD信号の変動が見られた。fMRIデータの各時点での灰白質全体のBOLD信号の平均値を差し引くことにより、これらのBOLD変動は小さく抑えることができることを確認した。
|