本研究では,脳深部領域を局所的に刺激可能なマイクロ磁気刺激法の確立に向け,局所刺激性能の向上を目指したマイクロ8の字コイルを製作するとともに,マイクロ磁気刺激による刺激空間分布を定量的に評価するための計測手法を確立することを目的としている。計画最終年度となる2021年度は,マイクロ8の字コイルを用いたマイクロ磁気刺激法による刺激性能の評価を行うため,培養神経組織および実験動物を用いた刺激誘発応答の評価を行った。上記に関し,以下の成果を得た。 (1)培養神経組織を用いたマイクロ磁気刺激性能の評価 前年度に製作したマイクロ8の字コイルおよび培養神経組織(ヒト神経スフェロイド)を用いた刺激誘発応答の評価を行った。85 kHz正弦波のマイクロ磁気刺激を連続的に印加した際の刺激誘発応答を細胞内カルシウム濃度の変化を指標として評価した結果,マイクロ磁気刺激の印加に合わせて培養神経組織の同期発火パターンが抑制されることを確認した。以上の結果より,新たに開発したマイクロ8の字コイルを用いて培養神経組織の電気的活動を調節できることがわかった。 (2)実験動物を用いた脳深部におけるマイクロ磁気刺激性能の評価 培養神経組織を用いた評価実験によりマイクロ磁気刺激に対する神経活動の調節を確認することができたため,次に実験動物(ラット)の脳深部領域を対象としたマイクロ磁気刺激性能の評価を行った。シリコンプローブ電極をラットの大脳皮質1次視覚野の深部領域に配置し,1次視覚野/網膜の表層部よりマイクロ磁気刺激を行った。しかし,各部位へのマイクロ磁気刺激に対する神経活動の変化を確認できず,この原因については脳深部領域の計測点とマイクロ磁気刺激を行う刺激点の違いが考えられた。そのため,今後は刺激-計測点間の神経回路網の構造を考慮したより詳細な検討が必要になると考えられた。
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