研究課題/領域番号 |
19K20696
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
中西 秀之 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, プロジェクト助教 (90722885)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 合成生物学 / 遺伝子治療 / 人工遺伝子回路 / 光遺伝学 / メッセンジャーRNA / 翻訳制御 / 細胞選別 |
研究実績の概要 |
2019年度に開発した光によりmRNAの翻訳を制御するシステムについて、当該年度は細胞毒性が無いことの確認や必要な光の強さの測定など追加の検討を行った。この光翻訳制御に関する論文はCell Chemical Biology誌に受理され、2021年1月に公開された。 また、2019年度には標的タンパク質を検知してmRNAの翻訳を制御するシステムを開発していたが(2021年7月末に特許公開予定)、このシステムには翻訳活性化には使えても翻訳抑制には使えないという欠点があった。当該年度はこのシステムに改良を加え、翻訳活性化と翻訳抑制のいずれにも利用できるようにした。この改良版のタンパク質応答型翻訳制御システムについては、現在、特許申請の手続きに入っている。本研究で開発したタンパク質応答型翻訳制御システムは、標的タンパク質の検知に用いるドメインを交換することで原理上はいかなるタンパク質の検知にも対応可能な設計となっているため、細胞種特異的なタンパク質を検知して、特定の細胞でのみ翻訳を活性化または抑制するのに利用できると考えられる。 本研究の目的は、細胞死などの生命現象に関わる因子をコードしたmRNAに対し、光翻訳制御により部位特性を、標的タンパク質応答翻訳制御に細胞種特異性を付与することであるが、このうち後者についてはmRNAにコードされた因子の方に標的タンパク質応答性を直接付与することで、よりシンプルなmRNAの構成で効率的に細胞死を制御できることが当該年度の研究により明らかになった。この新たなタイプの標的タンパク質応答システムのmRNAを細胞に導入した後、薬剤処理を行うと、標的タンパク質を発現していない細胞では約7割の細胞が死滅したのに対し、標的タンパク質を発現している細胞では細胞死は1割程度に留まった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
mRNAの光翻訳制御については、2019年度時点でシステムの大枠は出来ており、当該年度の追加検討を経て2021年に論文も公開されている。 また、標的タンパク質を検知してmRNAの翻訳を制御するシステムについてもその効果を実証するデータが出ており、翻訳活性化にのみ使えるシステムについては2020年7月末に特許公開予定、翻訳活性化・抑制のいずれにも利用できるシステムについては特許申請の手続き中である。 更に、mRNAの翻訳自体ではなく翻訳産物の方に標的タンパク質応答性を持たせることで、mRNAを導入した細胞の生命現象を、よりシンプルな構成で効率良く制御できるシステムの開発にも成功した。この新たに考案したシステムについても、現在、特許申請の手続きを進めている。 以上より、本研究は概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
標的タンパク質応答型のmRNA翻訳制御については、翻訳制御自体は可能であることがレポーター遺伝子をコードしたmRNAの翻訳制御により既に示されたため、次は生命現象を操作するための因子をコードしたmRNAの翻訳制御により実際に生命現象の操作が可能であるかを検討する。また、mRNAは生命現象の操作に用いるには分解が早いという難点もあるため(過去の研究では、二週間にわたるmRNAの繰り返し導入などを行っている)、mRNAに対し安定性を高める工夫も施す予定である。 当該年度に新規開発した、mRNAの翻訳産物側に標的タンパク質応答性を持たせて生命現象を操作するシステムについては、現在のところ標的タンパク質を発現している細胞を選択的に生存させるタイプしか出来ていないが、より広汎な生命現象の操作が行えるよう開発を継続する。 こうした標的タンパク質検知型のシステムと、2019年度に開発した光翻訳制御システムを組み合わせ、光による部位特異性と標的タンパク質検知による細胞種選択性を併せ持つ、mRNAによる生命現象操作システムを開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度未使用額が約49万円と比較的大きかったため、このうちの約半分が未使用となった。 前年度未使用額の約半分と今年度の支給額を合わせた金額を今年度は使用しており、次年度も同様のペースで研究を進める予定であることから、次年度の使用額は前年度の未使用額の残り半分と次年度の支給額を合わせた金額で適量となると予想される。
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