研究課題/領域番号 |
19K20699
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
森田 能次 中央大学, 理工学部, 助教 (40795308)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 蛋白質 / ヘモグロビン / 人工酸素運搬体 / アロステリック効果 |
研究実績の概要 |
赤血球の代替物として「人工酸素運搬体」の実現は、次世代医療の最重要課題である。これまで多くの修飾ヘモグロビン製剤が開発されたが、酸素結合に見られるアロステリック効果(協同性)が減少してしまう欠点があった。本研究は、赤血球の酸素運搬能を完全に維持したアロステリック人工酸素運搬体(ヘモグロビン-アルブミン)トリマーの創製を目的とする。具体的には、協同性に影響しないヘモグロビン(Hb)表面のアミノ酸残基を架橋点としてアルブミン(HSA)を結合する。Hb本来の協同性が完璧に維持された人工酸素運搬体を合成するとともに、その構造解析、酸素放出能制御を行う。 1)(ヘモグロビン-アルブミン)トリマー[rHb-HSA2]の四次構造解析:Lys-β120をCysに置換したrHbとヒト血清アルブミン(HSA)をビスマレイミド架橋剤で連結したrHb-HSA2トリマーの四次構造解析からrHb-HSA2トリマーは天然Hbと同様の四次構造変化が可能であることが明らかとなった。 2)rHb-HSA2の酸素結合能評価:rHb-HSA2は天然Hbと同等の協同性を保持することがわかった。また、pHが低下すると酸素親和性が低下し、Bohr効果も維持していた。さらに、赤血球中に存在するアロステリック因子である2,3-ジホスホグリセレートを添加すると酸素親和性が低下した。つまり、rHb-HSA2は協同性、アロステリック因子効果、Bohr効果を維持した人工酸素運搬体であることが明らかとなった。 3)変異導入による酸素親和性制御:いくつかの異常ヘモグロビンは低酸素親和性を示すことが知られている。rHb-HSA2のコアHbに同様の変異導入を行うことで、協同性を維持しながら適度に酸素親和性を低下することができた。得られた人工酸素運搬体は赤血球と同等の酸素結合能を持つことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画に従い実験を遂行し、2020年度の目標であった「四次構造解析」と「酸素親和性制御」を達成することができた。コアHb変異体の調製と精製、反応条件の探索、精製方法の検討に時間を要したが、最近ようやく効率的な精製条件を見出し、純度高く目的物を得ることができた。また、変異導入による酸素親和性の制御についても着手しており、赤血球と同等の適度に酸素親和性が低い人工酸素運搬体も得られている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、「部位特異的アミノ酸置換による高酸素放出能を有する人工酸素運搬体の合成」を行う。赤血球を超える酸素運搬効率を有する人工酸素運搬体を合成するために、協同性を維持したままより酸素親和性の低い変異rHb[rHb(X)]を調製し、rHb(X)-HSA2を合成する。既に、部位特異的アミノ酸置換により変異させたrHb(X)の合成を始めており、期限内に目標とする実験が終了する目途は立っている。 1年間で、赤血球と遜色のない人工酸素運搬体の基礎化学を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
上記の通り、本研究計画は概ね順調に進んでおり、当初計上していた培地、試薬、ガラス器具、クロマトカラム用ゲルなどの消耗品の消費量が想定より少なくて済んだ。また、新たなrHb(X)の合成を2020年度より始めているが、考えていた三重変異体を作らなくとも、十分に酸素親和性を低下できることがわかってきた。以上の理由により、2020年度は計上額との間に差額が生じた。
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