研究課題
切除不能肝細胞癌に対して経動脈的化学塞栓療法(Transarterial Chemoemboliztaion;TACE )は広く普及している手技である。油性造影剤であるリピオドールと、水溶性抗癌剤をポンピングして作成したエマルションを使用する、conventional TACE(cTACE)が最も一般的に用いられている。TACE後の治療効果を判定する手法としてCTが推奨されており、腫瘍内部のリピオドールの集積が治療効果(腫瘍壊死)を表す。一方でCT検査には被ばくの問題があり、特に我が国ではCTが大部分を占める医療被ばくが、世界平均より6倍近く高い数字でありその影響は無視できない。CT以外の方法としてMRIや超音波検査があるが、リピオドールの集積の程度が評価できなかったり、客観的評価ができないといった欠点がある。そこで我々は近年注目されている新しい技術である、「超音波加温」に着目した。超音波加温は物質の弁別を行う新しい技術として注目されている。生体物質が超音波加温を受けた際に、温度変化に伴う性状評価の可能性は過去に報告されている。物質は加温された時、物質中の音速変化率は温度に依存し、物質毎に固有の値をとることが知られており、これをTACE後のリピオドール集積の程度の評価に用いた。手法としてSDラットに肝細胞癌株を移植し、TACEを行い、1週間後単純CT、超音波加温、摘出肝のそれぞれでリピオドール集積能を比較した。結果は、単純CT-病理の相関と超音波加温-病理の相関はほぼ同様であり、超音波加温によるTACE後評価法は、従来のCTの代替となりうることが示された。今回の研究では、抗癌剤を用いていない点や開腹下で超音波加温を行った点、またTACE1週間という短期間のみの評価であった点などが今後の課題となるが、今後も検証を重ねて臨床応用を目指していく予定である。
すべて 2021
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Biology
巻: 10 ページ: 901
10.3390/biology10090901.