研究課題/領域番号 |
19K20718
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
高松 利寛 東京理科大学, 研究推進機構生命医科学研究所, 助教 (10734949)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 軟性内視鏡 / 自動挿入 / 使い捨て / ソフトアクチュエーター |
研究実績の概要 |
大腸内視鏡挿入は難易度が高く,穿孔を引き起こす事例や,盲腸まで到達しない事例も少なくない。そのため現在医師しか行うことができない検査である。また,内視鏡は検査後に洗浄が必要なため,人手や手間がかかる。そこで,本研究では使い捨て可能で内視鏡を安全に自動挿入可能な方法を模索することを目的として,2つのバルーンと蛇腹により進む構造と,ワイヤーにより湾曲する構造により,無線または細径の内視鏡と鉗子口の管を大腸内で搬送する方法を考案した。本年度では,1)使い捨て可能な自動挿入デバイスの開発,2)挿入デバイス部の電動操作と細径内視鏡の組み込み,3)大腸モデルへの挿入検討を実施した。 1)の使い捨て可能な自動挿入デバイスの開発に関しては,3Dプリンターやプラスチック・ゴム部品を用い,原案のデバイスを開発することができた。また,デバイス単体では想定した通りの動作を行うことができた。 2)の挿入デバイス部の電動操作と細径内視鏡の組み込みでは,バルーン,蛇腹,ワイヤー駆動の部分をマイコンを用い,電動化することができた。また,細径内視鏡を組み込み,画像取得することも可能となった。 3)の大腸モデルへの挿入検討では,直線,および緩やかな湾曲の形状であれば大腸モデルを走行できることが確認された。しかし,強度に屈曲する部分は,デバイスの剛性や蛇腹の伸縮の部分で改善が必要であることが明らかになり,次年度の開発指針となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は自動挿入内視鏡の開発に向けて下記の項目を検討した。 1) 使い捨て可能な自動挿入デバイスの開発:本研究の目的を実現するために,2つのバルーン,蛇腹,ワイヤーという安価な素材による自走機構で内視鏡を腸管内へ搬送させる方法を検討した。これは,①後方のバルーンの膨張→②蛇腹の伸長→③前方のバルーンの膨張→④後方のバルーンの収縮→⑤蛇腹の収縮→⑥前方バルーンの収縮→①後方のバルーンの膨張→②蛇腹の伸長,という動作を繰り返すことにより進行方向へ挿入されていく。また,直進構造のみでは柔軟な素材でも大腸の湾曲している部分に侵入していく動作は不可能であるため,蛇腹部分に4本のワイヤーを備え後方で牽引すると湾曲する構造を組み込むことで,上下左右に方向を定めることができる。本研究では,3Dプリンターを用いて湾曲部や蛇腹本体を成形し,バルーンやワイヤーを組み合わせて,原案のデバイスを開発した。その結果,デバイス単体では想定した通りの動作を行うことができた。その一方で,腸管モデル内で実用的な操作をするためには,デバイス本体の剛性が足りないことや,伸縮のストロークの最適化が必要であることが問題点として挙げられた。 2) 挿入デバイス部の電動操作と細径内視鏡の組み込み:バルーンや蛇腹の部分をコンプレッサーおよび真空ポンプを繋き,電磁弁を制御した。また,ワイヤーの駆動はサーボモーターに接続し,回転角で変位を制御した。また,カメラ部分には細径の内視鏡を組み込み,画像を取得できる構造を開発した。 3) 大腸モデルへの挿入検討:開発したデバイスを用いて大腸モデル内の挿入を検討した。その結果,直線状の腸管モデルや緩やかに湾曲したモデル内は走行可能であることが確認された。一方で実際に臨床で遭遇する大腸モデルの形状では,湾曲が大きい部分で挿入が困難であり,デバイスの改良が必要であることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は引き続き,カメラ部分のワイヤレス化,自動挿入内視鏡の構造の最適化をはかり,大腸モデルの挿入の検証を行うとともに,下記の項目も検討する。 1) 安全性確保のためのフィードバック:S状結腸や上行結腸などの部位,または個人差によって内腔の直径が異なる。過度に力が加わると穿孔の危険性があるため,バルーンを安全かつ確実に腸壁に固定するためには,膨らむ直径を制御しなければならない。そこで,バルーンの内圧を圧力トランスデューサーで測定し,フィードバックをかけることによりバルーンの最大圧力を一定に保つ。また,サーボモーターは負荷がかかったときに消費電流が増加することから,消費電流値をモニターすることによって,腸壁にあたって過度に湾曲したときの検知システムとして利用可能か検討する。 2) 動物に対する挿入実験:ブタやイヌは腸の特徴が人間に近いため,内視鏡関連の研究によく用いられる。本研究では,実際の生体で安全かつ蠕動運動する中を自動挿入可能か検証するため,生きた動物に対して開発したデバイスの挿入実験を行う。 3) AIによる挿入方向判断の検討:本研究で開発するデバイスは,挿入の全ての駆動やフィードバックが電気的に制御可能になるため,機械学習により挿入方向が判断できれば,操作信号と連動させて操縦者の判断なしに自動挿入が可能となる。そのため,大腸モデルを用いて挿入方向の教師データを作成し,その情報からカメラ先端部が向く方向を判断させ,自動挿入可能かどうかを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの蔓延に伴い,3月開催予定の学会参加が延期となり,旅費,参加費分が使用されなかったため。 繰り越された予算は次年度に延期になった学会の参加に使用する予定である。
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