悪性胸膜中皮腫(MPM;malignant pleural mesothelioma)は、可能な限り早期に発見して治療を行うことが最良の策であるものの、患者自身が自覚できる特徴的な症状は殆どなく、早期発見の機会を逃すことが多い。そのため、早期発見に有効で標準化された診断技術の構築が現在の課題である。申請者はこれまでに、がん細胞培養培地中の約20種アミノ酸濃度についてトータルバランスの変動に基づく総合的指標を作成し、細胞の状態を評価する手法「アミノ酸メタボロミクス」を開発した。本研究では本法を応用し、生体内(血液や胸水中)アミノ酸のトータルバランスの変動解析をもとにMPMの診断や他疾患との鑑別を可能とする統計的指標の作成を目的としている。 今年度も、臨床検体としてMPMおよび対照である反応性中皮(RMC)と診断された患者から採取した胸水についてLC-蛍光分析および解析を行った。得られたアミノ酸情報に基づいて検体の状態(MRMまたはRMC)を判定するための予測モデル構築を試みたところ、感度60%および特異度80%の予測モデルが得られた。本研究で提唱する「アミノ酸濃度のトータルバランスの変動から疾病状態を評価する指標の作成」は可能であると考えられるが、現時点では検討に用いた臨床検体数が少なく(MPM20検体・RMC49検体)、標準的な指標の確立には至っていない。高い診断性能を有する予測モデルを得るためには、群間で有意差がみられたアミノ酸を用いる必要があり、測定対象とするアミノ酸の種類や数を含めて今後も更なる検討を行っていく予定である。
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