研究課題/領域番号 |
19K20734
|
研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
野村 修平 帝京大学, 公私立大学の部局等, 助教 (00825432)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | Photoswitch / 光学的神経刺激法 / 安全性評価 / 人工感覚器 / 生体医工学 / 医療技術評価 |
研究実績の概要 |
失われた感覚機能の再建を目指した神経刺激技術の医療応用に向けた研究が盛んに取り組まれている。既に実用化されている人工内耳や人工網膜では、生体内に埋植した金属製微小電極により神経を電気刺激する。しかし、電極の微細化には物理化学的な限界があるため、電気刺激方式では高密度の神経刺激は原理的に困難である。この問題の解決策として、光学的神経刺激法(photoswitch)が提唱されている。細胞膜イオンチャネルに結合する光感受性化合物の利用により、神経細胞に光応答性を付与することができる。これにより、光による高密度神経刺激を実現できる。本研究では、photoswitchの有効性および安全性を検証する。 本年度は、光感受性化合物の1つであるBENAQ(化合物[1])の合成検討を行った。化合物[1]はアゾベンゼン第4級アンモニウム誘導体であり、アミノ基(-NH2基)を有する中間生成物(Aminoazobenzen 4:化合物[2])とカルボキシル基(-COOH基)を有する中間生成物(Triethylgricine:化合物[3])のアミド結合(-NHCO-)形成反応によって合成できる。ここでは、反応性の低いカルボキシル基(-COOH基:化合物[3])を酸塩化物(-COCl基:化合物[4])に活性化し、これを化合物[2]と反応させる合成手法をとる。しかし、化合物[4]は化学的に不安定であり、大気中の水分や酸素により容易に分解してしまう点が合成プロセス上の課題であった。その解決策として、禁水条件および脱酸素条件を実現する有機合成プロセスを構築した。現在、化合物[1]の合成条件の検討を行っている。次年度、化合物[1]を含む複数の光活性化合を合成し、神経系培養細胞や剥離網膜を用いた有効性および安全性の評価を行う。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
化学的に不安定な中間生成物(酸塩化物)が大気中の水分や酸素により容易に分解してしまうという課題の対処に時間を要した。現在、禁水条件および脱酸素条件を達成する合成プロセスを構築し、目的化合物を安定的に合成するための条件検討に着手している。
|
今後の研究の推進方策 |
目的化合物を安定的に合成するための反応条件を設定し、細胞評価に使用可能な純度の化合物を得る。加えて、評価系を構築する。細胞評価では、神経薬理評価などに広く使用される神経系培養細胞NG108-15(マウス神経芽細胞)を用いる。微小電極アレイ(microelectrode array: MEA)上に培養したNG108-15細胞に化合物を添加し、光応答性を付与する。パルスレーザーを照射し、光刺激に対する細胞の誘発応答電位をMEAで記録する。誘発応答の潜時や振幅の変化を経時的に記録し、phoswitch効果の持続時間を測定する。また代謝により応答が消失した場合、化合物の再添加により、再度、光応答が得られるかを確認する。応答が見られた場合、初回添加との有効時間や応答の大きさなどを対比させる。これらの評価により、神経細胞に対するphotoswitchの影響を検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた細胞評価装置(高速冷却カメラ一式)の購入費用および旅費が少なく済んだため。 一方、化学的に不安定な中間生成物を用いた有機合成反応について、安定した合成条件を検討するための試薬や分析の費用として使用する。
|